Runaway train

□…
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それから数日後、いよいよ撮影が始まった。ちょうど今が撮影中であるが、黄瀬は自分の出番ではなかったので、端でその様子を見ていた。


この前の打ち合わせの日、黄瀬の二度のキスにもあまり反応を見せず、結局扉越しに聞こえた足音に慌てて彼女が降りて、以降は全くこれといった接触がなかった。

出口に待ち構えようかとも考えはしたが、そこまで必死になるのは俺のスタンスではないということで即ボツ案に。
今日の撮影も、甘ったるい台詞に、触れるシーン、一つ一つにドキドキ反応していたのは、悔しいことに黄瀬の方だった。それに、彼女が別の出演者と接触するシーンは、自分は休憩であっても必死に目で追ってしまうのだから、滑稽な話である。早く落としてしまわなければ、立つ瀬がない。


「休憩入りま〜す」


今のカットも終わり、休憩に入る。黄瀬が腰を上げると、その周りには他の共演者が集まった。主に、女だ。


「涼太くん、さっきの演技すごかったわ〜!ドキドキしちゃった!本当は俳優が本業じゃないの?って感じ!」

「今日の衣装もすごーく似合ってて、格好いい〜!あたし、好きになっちゃいそう!」

「そうっすかね〜」


その後も軽く相槌をうつ。彼女達の褒め言葉は、お世辞かもしれないが、確かに自然に演技ができている自覚はあった。だがその要因は、千鶴だ。
彼女のリードが上手いのだ。あちらのあまりの自然さに、思わずこちらも演技ということを忘れてしまう。

黄瀬が立ち上がる。ちょうど彼女らを振り払う目的もあった。トイレに行くと告げると、その場を去っていく。
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