Runaway train

□…
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「ああ〜バスケしたい…」


黄瀬が一人になれる場所を探していると、ふいに聞こえる声。


「ちょっと、冗談は止めて下さいよ」

「いいだろう?それとも何だ、お前は、これぐらいで集中出来なくなるような出来損ないか?」


千鶴と監督の声だ。


「いや、もしも撮影に影響したら、他の方にも迷惑になっちゃうじゃないですか」


本当にこの監督は作品作りに関して以外は、ろくでもない人間らしい。天才はどこか抜けているとよく聞くけれど、キセキの世代しかり、この監督しかり、その例に外れる事はないらしい。


「…黄瀬か」

「ああ、どうもっす。お邪魔、でしたかね?」

「まさしくそうだな」

「何してらっしゃるんすか?個別指導?」

「まあそのへんだ。…興が冷めた。俺は行くぞ」


去っていく監督を、目線のみで見送った後、黄瀬は千鶴に向き直る。


「何て言われてたんすか?」

「え、いや…」

「教えて?」


そう言えば、千鶴やっと目を合わせてくた。大きく見開いた瞳を揺らし、戸惑いを見せながらも答える。


「…を、入れながら撮影しろって」

「ごめん、何を?」

「バイブ、を…」


中坊が喜々して使うその言葉を、顔を真っ赤に染めて言う千鶴。この前のキスには動揺しなかったくせに、と思うが、それ以上に監督の性癖に呆れた。青峰でもそこまでしない。

それって、他の男に対して感じてる顔見ろって話だろ?というか主に恋人役だろ?何だそれ、生き地獄以外の何物でもないだろ。
千鶴の肩をつかみ、目線を合わせる。



「監督とはここでばったり?」

「いや、呼び出されたの」

「…俺、呼んでって言いましたよね?」

「でも、一人で頑張るとも言った」

「でもじゃないっす」


俺が落とそうとしてる人間を堂々と汚されるのは癪に触る。負けず嫌いの自覚はあるのだ。


「いいっすか?なんかあったら、俺を頼って。恋人役は伊達じゃないっすよ」

「ふふっうん、わかった」


また、自然な笑顔だ。彼女がやけに嬉しそうに帰っていく。


「…なんなんすか、もう」


何でこんなに胸が高鳴るんだよ。
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