Runaway train

□…
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『ごめん。俺勘違いして、』

『いいの。それでも好き、だから』

『渚、』


そう俺は、傷ついた小さな体を抱き締め、そっとキスを落とした。


「はい、カット〜。2人共お疲れ」

「お疲れ様です」


今撮ったのは、すれ違っていたカップルが、修学旅行での出来事をきっかけに誤解が解ける、大事なシーン。
張り詰めた撮影現場の緊張が一気にとけ、俺も水分補給を終えて一息つき、椅子に腰掛ける彼女のもとへ向かう。


「お疲れ様っす」

「お疲れ〜。黄瀬くん、演技上手くなったね。そうとう練習したでしょ」

「分かってもらえました?すげえ嬉しい。でもやっぱ##NAME4##さんの演技には遠く及ばないっす」

「そりゃあ、演技が本職だもん」

「……さっきのはマジでヤバかった」

「ヤバいって?」

「いや、気にしないで下さい」


流石、大物女優と言うべきか、演技とは到底思えない"好き'には、男なら誰だって心奪われる。これは本当の気持ちなのではないかと。


「ひっ……」

「ん?」


急に彼女が小さく肩を揺らした為、どうしたものかと後ろを振り向けば、黄瀬のすぐ後ろにあの監督の姿。
なる程と、若干呆れ気味にそちらに向き合えば、鬱陶しいというオーラ全開に睨まれる。


「邪魔だ、どけ」

「連絡はないはずですけど?」

「生意気な」


そう悪役さながらに去っていく、黒子さながらの登場をした監督を横目に、再び千鶴と向き合う。


「最近ね、上と揉めてるんだって」


確かに言われてみれば、最初の時のような余裕が監督からは感じられなくなっていた。対外面からの圧迫からか、千鶴に対して完全に遊びではなくなってきている。


しかし監督も、撮影中はこれ以上ないくらいしっかりしてるし、たまに直に入る演技指導は本物。
セクハラオヤジであることを除きさえすれば、理想的な監督なのだ。


「毎回大変っすね」

「それを毎回助けてくれる黄瀬くんも大変だよね。今回もありがとう」

「この位大したことじゃないっす」


そう言いながら、彼女の様の椅子に腰掛け、足を組み、ちょっと何気に格好つけてみる。
こんなさり気ないことにも、帝光中の女子ぐらいだったら顔を真っ赤にするのに、瀬川千鶴はそれがない。
ただ助けてくれるだけの男、それがこれまでの黄瀬だった。
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