Runaway train
□…
11ページ/16ページ
『ごめん。俺勘違いして、』
『いいの。それでも好き、だから』
『渚、』
そう俺は、傷ついた小さな体を抱き締め、そっとキスを落とした。
「はい、カット〜。2人共お疲れ」
「お疲れ様です」
今撮ったのは、すれ違っていたカップルが、修学旅行での出来事をきっかけに誤解が解ける、大事なシーン。
張り詰めた撮影現場の緊張が一気にとけ、俺も水分補給を終えて一息つき、椅子に腰掛ける彼女のもとへ向かう。
「お疲れ様っす」
「お疲れ〜。黄瀬くん、演技上手くなったね。そうとう練習したでしょ」
「分かってもらえました?すげえ嬉しい。でもやっぱ##NAME4##さんの演技には遠く及ばないっす」
「そりゃあ、演技が本職だもん」
「……さっきのはマジでヤバかった」
「ヤバいって?」
「いや、気にしないで下さい」
流石、大物女優と言うべきか、演技とは到底思えない"好き'には、男なら誰だって心奪われる。これは本当の気持ちなのではないかと。
「ひっ……」
「ん?」
急に彼女が小さく肩を揺らした為、どうしたものかと後ろを振り向けば、黄瀬のすぐ後ろにあの監督の姿。
なる程と、若干呆れ気味にそちらに向き合えば、鬱陶しいというオーラ全開に睨まれる。
「邪魔だ、どけ」
「連絡はないはずですけど?」
「生意気な」
そう悪役さながらに去っていく、黒子さながらの登場をした監督を横目に、再び千鶴と向き合う。
「最近ね、上と揉めてるんだって」
確かに言われてみれば、最初の時のような余裕が監督からは感じられなくなっていた。対外面からの圧迫からか、千鶴に対して完全に遊びではなくなってきている。
しかし監督も、撮影中はこれ以上ないくらいしっかりしてるし、たまに直に入る演技指導は本物。
セクハラオヤジであることを除きさえすれば、理想的な監督なのだ。
「毎回大変っすね」
「それを毎回助けてくれる黄瀬くんも大変だよね。今回もありがとう」
「この位大したことじゃないっす」
そう言いながら、彼女の様の椅子に腰掛け、足を組み、ちょっと何気に格好つけてみる。
こんなさり気ないことにも、帝光中の女子ぐらいだったら顔を真っ赤にするのに、瀬川千鶴はそれがない。
ただ助けてくれるだけの男、それがこれまでの黄瀬だった。