Runaway train

□…
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黄瀬が遊びで自分に絡んできていることは、なまえもいくらか気付いていた。それでも、これだけの容姿に運動もできて売り出し中のモデルというステータスがあれば、いずれ飽きて他の女にいってくれるだろうと、共演者として仲良くはしつつ、様子を見ていたというのに。

ちょっとしたアクシデントで本名を教えざるを得なくなった。それだけじゃない。何で、今、自分はキスさてれいるんだろう。


「っ、ん…!」


驚きのあまり開いてしまった唇の隙間を塞ごうとするも、時既に遅し。 早急に黄瀬の舌は、なまえの口内に侵入してくる。
口内を犯されるように丹念に舌をからめ取られ、時折何の前触れもなく吸われれば、意識が飛びそうになるくらい体が熱くなる。
この前以上の深い深いキスは、なまえの思考を壊すには十分だった。
何時間にも感じられる、実は案外短い時間は終わり、名残惜しげに離れた黄瀬の唇と、自身の唇は尚もどちらのものかさえわからない銀色の唾液で繋がってた。


「…らない、」

「先輩?」

「知らない。こんなとこ誰かに見られて、恋愛報道とかされても」

「俺はそれでもいいけど。なまえ先輩は髪型違くてバレないわけでしょ?迷惑かけないじゃん」

「彼女にも誤解されちゃうよ?」

「彼女?ああ、ついこの前別れました」


黄瀬の意外な回答に思わず、下を向いていた頭を思い切り上げてしまう。


「えっ?」

「こんな可愛い子が目の前にいて、今更並みの女に興味なんか無いっすわ」

「可愛い、子…?」


本当にこの男は自分を落としたくてしょうがないらしい。遊びでそんなことする余裕があるなら、他に情熱をかけたらいいのにと思うが、現にモデルに俳優にバスケ部に、十分だなと思い直した。

なまえが呆れて駅への道を足早に進むが、すぐに黄瀬の長い足で追いつかれ、横を歩いてくる。


「デート楽しみっすね〜」

「週末までもう撮影ないんだよね」

「そう。だから、番号とメアド交換して下さいっす。あ、なんならラインやってる?」

「うん」


そうして鞄からスマホをだした途端、すぐさま取り上げられ、一通りの作業を終え、返された。
他の関係ない所まで見ようとしなかったようなので、ギリギリセーフとする。


「じゃあ、詳しいことはメールで決めましょうか」

「うん、バイバイ」

「え?送りますよ。もう遅いし」

「いいよ、気遣わなくて。すぐ近くだから大丈夫」

「ダメっすよ。女の子は黙って送られればいいんす」

「じゃあ、それは週末の楽しみにとっとくってことでどう?」

「え〜、」


黄瀬は不満そうだったが、折れる様子を見せないとわかると、立ち止まった。諦めたようだ。よろしい。


「わかりました。じゃあ、最後にキスして下さい」

「キス?」


往生際が悪い。それに、さっき無断でしただろうに。


「先輩から。できますよね」


何気に距離を詰めてくる黄瀬。目の前が真っ白になりそうだ。


「わかった。わかったから!」


これでいいでしょ、と担架切って顔を近付け、ほんの一瞬唇を重ね合わせた。
なまえがそのまま離れようとするも、踵を返すと同時に腕を掴まれた。必然的に制止することになる。


「………何?」

「さあ」


もう片方の手がなまえの顔を黄瀬の方を向けさせ、先程とは全く違う触れるだけのキスが降ってきた。気付いた時にはもう顔は間近で、成す術はない。


「もう可愛いすぎっすよ」


そんな初めて見る、年相応の笑みを見せられて、顔に熱が集まるのは十分理解できた。


「もう知らない!」

「またそれ?」

「そうだよ。悪い?」

「急にキャラ変わりましたね」

「知らない〜!」

「またっすね。口癖?」

「「知らない」」

「ほらね」


そう笑う黄瀬は何だかんだでひたすら付いてくる。

なまえとしてはこんな早歩きで手一杯なのに、あちらは相当余裕そうだ。足の長さの違いだなんて認めない。
そうして曲がり角の手前で止まれば、黄瀬もやや遅れ気味に止まる。


「私こっちだから。駅はそっちでしょ?」

「やっぱ送る「ダメ。ちゃんとキスしたもん」…はいはい」

「中学生は早くお帰り」

「そうやって子供扱いする〜」

「バイバイ」


そう言い放ち、今度こそ全速力で走って帰る。胸がドキドキするのは、きっと運動不足な所為だ。
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