Runaway train

□…
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事の始まりは約半年前に遡る。


「映画の、主演?」

「そうだ。新人モデルにこんな大仕事、更に人気に拍車がかかること間違いなし!勿論、受けるよな?」

「ああ、はいっす。俺じゃちょっと力不足かもしれないっすけど」

「大丈夫だ。新人の掘り当てと育成に定評のある、名高い監督の二年振りの作品だ。大ヒットは、間違いないさ」


そう言い切るマネージャーに、黄瀬はやや押し負け気味に頷くしかできなかった。
そして彼は、朗報だと言わんばかりに胸を反らして続ける。


「それに、ヒロイン役には、今や人気絶頂の若手女優、瀬川千鶴が起用されてるからな」

「俺の一個年上って言う…?」

「そうだ。だよな〜お前も知ってるよなあ。俺、ファンなんだよ」


知っているに決まっている。テレビでもよく見るし、何よりバスケ部でも可愛いし綺麗だと評判の女優だ。
年も近いというのだから、男達の妄想力は総動員され、面ではけして言えないような事だって考えていたのは青峰だけじゃない。

「さっそく今日、打ち合わせに行ってもらうんだけどいい?」

「えっ今日?!」

「まずかったか?」

「いえ、あんまり急だったから」

「いや〜悪いな。まあ、挨拶だけだからさ」

大して悪びれる様子もないマネージャーが、車を走らせた。


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炎天下。大型バスのクラクションが鳴り響く。
辺りはヒールや革靴など、様々な人の足音や、車の騒音で騒がしく、空が潰されてしまいそうなほど高いビルが立ち並んでおり、いかにも都心、という空気で満たされている。

なまえは、本日何度目がわからない溜め息をついて、目の前の建物を一望した。
今日彼女がこんな苦手な場所に来たのは、業界じゃ名のある監督の最新映画の打ち合わせのため。

それだけで卒倒しそうなのに、今日はそれに加えてその監督に会わなくちゃいけない、その事実に学校の授業さえ集中できなかった。
なまえの場合、ただでさえ仕事で授業でれない時が多いから、日々の授業はこれでもかってぐらい集中してるというのに、また遅れをとってしまったじゃないか。悪いが恨まざるを得ない。


「千鶴ちゃん?」

「…あ、はい。すいません」

「大丈夫?行くわよ?」


(……うん、きっと今日は大丈夫)

なまえは息を吐き、ビルの中に入って行くマネージャーさんの後を足早についていく。
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