Runaway train

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ガサッとエロ本がフローリングの床に落ちる。あー、曲げちゃうかも。青峰っちごめん、なんて軽く心の中で謝って、真っ直ぐ先輩を見つめる。
名前を呼ばれたのに驚いたのか、押し倒されたのに驚いたのか、恐らく両方だろうが、もともと大きな目をこれでもかってくらい見開いている。


「黄瀬、くん…?」

「何?」

「これ、どういう…」

「そういうことっスよ」

そう言って、淡い花柄のワンピースに手を掛ける。上の方はボタンだったから、手早くボタンを外して、タンクトップをたくし上げる。
そうして顔を出したのは、白いレースの清楚なブラ。期待しててくれたのかな、なんて思うのもしょうがない。


「ヤだ。恥ずかし…!」

「可愛い下着っスね。ねえ、期待してた?」

「して、ない!」


隠そうとする両手を捉え、左手で頭の上に固定する。
ほんと、さっきのエロ本なんか比じゃないくらいエロいし、綺麗。やっぱ素質なら随一だ。


「なまえ、綺麗」

「ヤだ。ね、止めよ?」

「駄目」


男と2人きりのときエロ本見ようとか言うの、誘ってるとしか思えないっつの。
そう言い訳して、ブラをたくし上げる。ぷるんと顔を出した胸の頂は美味しそうな真ピンク。
考える間もなく、俺はそれに食らいつく。


「ヤぁ…ダ、メぇ…、」


そう言うの逆効果だから。そう忠告してやりたいのは山々だが、如何せん口は舐めるのに必死だ。
偶にあま噛みすれば、ビクンと肩を揺らす様が愛おしい。右手はもう片方を揉みしだき、指は頂を弄っていたが、暫くして段々と体のラインに沿う様に下ろして行き、遂には足の付け根に付く。
下着の端をなぞり、ゆっくり中央を撫でる。
俺も相当余裕ねーな、なんて冷静に考える。じわじわ攻め倒すつもりだったのに。


「濡れてるっスね」

「ひぁ!…ヤだぁ、」


嫌々言いながら満更でもないんでしょ、と言うつもりだった言葉は飲み込む結果となる。
聞こえてきた音に固まるしかなかった。玄関の開く音だ。
鍵はしっかり閉めたから、家族の誰かが帰ってきたということ。


「あら涼太ー、いるのー?」


冷や汗がつたるのがよくわかった。母さん、だ。


「すんません先輩、辛いだろうけど、一旦中止!」


そう言えば、慌てて起き上がってスカートを直した先輩を手伝って、ブラを戻し、ボタンを閉めていく。
急ピッチでボタンを閉め終わり、次は先輩と乱れた髪を手櫛でとく。こういうとき、サラサラで助かる。
そうして、完全に準備が終わった時。


「涼太ー、女の子連れてきてるのねー」

「そうだよ。なんで早めに帰ってきたんだよ。てか入ってくんな」

「酷いわね。せっかくお菓子持ってきてあげたのに」

「もう出したっスよ」

「あら、あれを探し出したのね。我が息子ながらやくやったわ」

「嬉しくねーよ」


そうして遂に先輩に視線を移した母さんは、あからさまに目をキラキラさせて小走りで部屋に入っていった。


「あらあら可愛いー」

「お邪魔してます」

「なまえさんにベタベタ触んな!」


そう早々に母さんに追いついて、手を払いのけるとやたらニタニタして笑いかけてくる。


「もー、初めて涼太がうちに連れ込んだ女の子よ?もっと近くで見たいって思うのが母親心よ」

「連れ込んだとか人聞きの悪いこと言うなよ!」

「あら違うの?」

「違げーよ!」

「あの、初めてって…」


母親との先の見えない論争に口を挟んでくれた先輩にこの日一番の感謝の念が湧く。


「そう、初めてよ!もしあたしの目を盗んで連れ込んでいたとしても、私が部屋の掃除のときに気付かない筈がないわ!」

「そ、そうなんですか」


曖昧に返す彼女は、流石に呆れ気味のようだ。そんな母さんは、十分に先輩を満喫できたらしく、ようやく離れてくれた。


「じゃあ、ごゆっくり」


ガタンと勢いよくトレイをテーブルに置いて、陸上選手も吃驚のスピードで部屋を出て行く。


「えっと、」

「すんません。あのタイミングは辛かったでしょ。今も辛い?」

「うーん。辛いっちゃ辛いけど、時間押しちゃってるしね。私も急すぎてちょっと動揺しちゃって」


そう言われて時計を見れば時刻は5時過ぎ。


「それ俺は悪くないっス。俺の部屋でエロ本見たいっつう先輩が悪い」

「わ、私?」

「そっスよ」


俺が言えば、罰が悪そうに頭を下げられ、何だか悪い気がした。


「続き、俺はしたいけど無理ですよね。声抑えらんないでしょ?」

「いい!しなくていい!」

「辛いのはなまえさんですよ」

「いいの」


そう担架切る先輩にそういえば、と思い出し、ある物を机から取り出す。
前の前の彼女に貰ったものだけど、結局一回も使わなかった残念な品だ。


「これあげます」

「黄瀬くん、こ、これ…!」

「バイブっスけど」

「ちょっと、あげますって何!いらない!絶対いらない!」

「えー、何で?」

「聞くな!理由は特に無いよ!」


両手で顔を覆って俯いてあーとかうーとかやたら唸っている彼女の顔を無理やり起こして、目を合わせる。こんなパターン前にもあったな。


「貰ってくれないとこの場で続きしちゃいますよ?」

「それは、困る…」

「ね?だから貰って下さいよ。持って帰って使わなきゃいいっスから」

「それもそうだね」


そう遂に折れた先輩は俺から手渡されると興味深げにまじまじと見つめて、最終的にため息をついた。


「これ貰って、黄瀬くんに何か得があるの?」

「まー特に」


いや、それ使って先輩いじめたり、自慰してもらったりとかね、あわよくば先輩んちでできないかとかね、いろいろ本当はありますけどね。まー兎に角今日辛かったら自分でしゃえば、なんて軽いノリな訳。
そんな気持ちを一言につめたのが伝わったのか、それ以上聞かないでいてくれるらしい先輩の聞き分けの良さには乾杯する。


「帰る。送ってくれるんでしょ?」

「喜んで!」
14|03[逢い引き]



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