Runaway train

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さっき黄瀬くんがくれた代物が気になって仕方ない。というかあんなのなんで持ってたんだろう、なんて考える出すと切りがないのでしょうがなしに横を何気に歩幅を合わせてくれてる黄瀬くんに目を向ける。
夕陽に照らされていつもの格好良さに更に磨きがかかっていて、見るだけで何故か恥ずかしい。
それに先程の男の表情を見せられてからと言うものの、何となく胸がむず痒かった。
今までも年下として見るこてなんてそうなかったけれど、今となっては尚更だ。


「なまえさん、」

「何?」

「今日楽しんでもらえました?」

「楽しかったよ。ありがとう。また誘ってね」

「本当っスか!いや、俺つまんないとか思われたどうしようってずっと考えてて。また誘います、絶対」

「お願いね」


そう再び沈黙。だけど苦じゃない。寧ろ心地いいとさえ感じる。
話題を繋ぐのを努力するのは苦手なタイプだから、こういう相手だと助かる。
暫く歩いて、黄瀬くんが口を開いた。


「みょうじさん学校で、女優だってバレないんスか?パーツはもろでしょ」

「知ってる限りバレてないかな。友達は何人か知ってるんだけどね」


確かにバレないのは奇跡的だと思う。そんなに髪とメイクで変わらないだろうから。


「俺も誠凛行こうかな」

「推薦くるの?うちのバスケ部は来年もスカウトに力入れなそうだけどね。新設校だし」

「一次のリストには無かったっス」

「じゃあ駄目だね。推薦で行けた方がいいよ」

「えー、先輩と同じ学校通いたい」

「そんな選び方しちゃ駄目でしょ。それに、うちのバスケ部の監督怖いよー」

「それは嫌っス」


リコを思い出して笑みが零れる。黄瀬くんに嫌がられたゃったねー。
なんて呑気に考えていると、急に立ち止まり、真剣な表情になった黄瀬くん。私もそれに順じてやや遅れ気味に立ち止まる。


「先輩、」

「はい」


何だか必然的に改まって答えてしまい、我ながら滑稽で笑える。


「俺、やっぱ先輩のこと好きっス」


そう言う黄瀬くんに、先程黄瀬家を出る際に、こんな男だけど、末永くよろしくねと、黄瀬母に念押しされたのを思い出す。
さっきあんなことされたし、黄瀬くんの素振りも普通だったし、自分自身忘れかけていたけれど、私と黄瀬くんは別に恋人とか言う特別な関係なんかじゃない。


「先輩は俺のこと、好き?」


この前告白まがいなことをされ、その時はおちょくってるだけだと思って流したけれど、今日の黄瀬母曰わく、彼女も今はいなそうだし、彼に先程ああいうことされて驚いたけれど、嫌だったかと問われればそうでもない。
学校でも黄瀬くんのことで頭が一杯だった。メールが来るとドキドキしたし、心が暖かくなった。仕事中も他の仕事より断然スラスラ甘ったるい台詞が言える。何より黄瀬くんの笑顔が好きだ。これに元気を貰っていたから、あの監督の仕事に耐えられているのは変えられない事実だ。


「私は、」


私は黄瀬くんが好きなのだろうか。
無論、その答えは既に分かっていたのだ。


「黄瀬くんが、好き」


言ってしまえば案外あっさり言えてしまい、何だかあっけない。
顔に熱が集まるのが分かり、頬に手をあてれば、案の定、熱い。
視線を上げれば、フリーズして微動だにしない、目を見開いて若干頬を赤らめる黄瀬くん。
ああもう、自分から言わせといてなんて反応だ。こっちが余計恥ずかしくなる。


「ここまででいい!こっからは人も多くいし、黄瀬くんまた囲まれちゃうだろうから。じゃあね!」


何か言わせる気は毛頭ないので、そそくさ走り去る。黄瀬くんの足ならすぐ追い付けるだろうに追ってこないのは、未だフリーズしているからだろうか。
黄瀬くんちゃんと家に帰ったかな、なんて心配してメールを送ることになるのは、家にたどり着いてからのこと。
15|03[逢い引き]

 

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