Runaway train

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「全く、油断も隙もないっス…」

「ん?」

「いや、何でもないっスよ」


現地解散だったので、試合の後待っててくれた先輩と落ち合い、電車で2駅行ったところの喫茶店に入る。
この前の反省もあるので、ジャージは流石にそのままだが、ヘアバンドに伊達メガネ、変装は完璧だ。
同中の人に見られたらと思うと些か気が重いが、それはどうしようもない。


「そ?それにしても、一緒に試合してた緑の人、この前黄瀬くんと帰ってた人だよね」

「俺以外の男ばっか見てた訳?」

「違うよ!ただね、この前悪いことしちゃったなって思ってね!」


そう言い訳しても駄目だ。さっき無意識に声にだしてしまった油断も隙もない、は緑間っちや青峰っちに対してだ。
あの可愛いだのタイプだの騒いでたのは俺の耳にも入った。流石もとの女優のファンなだけあって、青峰っちもよく見つけたもんだと思う。
でも今警戒すべきは緑間っちだ。青峰っちにばれるからその場では聞かなかったが、この前先輩の話通り会って、勿論そのことに気付いていたはずだ。
それに可愛いだのぬかしてたから、俺も警戒し過ぎではないだろう。
この前も緑間っちの前で先輩に話かけるのは、やっぱヤバかったか。いや、あのまま日向なる男といい雰囲気だったのも許せないし、もう兎に角先輩は俺のだ。


「俺は?」

「え?」

「俺はどうだったかって言ってるんス」

「あー、黄瀬くんすごかった!あれダンクって奴でしょ?初めて見たの。すっごく格好よかった!」

「…褒め過ぎっスよ」

「ほら照れないの。私もっと褒められるよ!こんなの序の口!」

「んもー、」


今の俺は顔が赤らんでいることだろう。それを紛らわす意味も込めて、先輩のケーキを一口大刺したフォークを持った右手を引き、ケーキをこちらの口に入れる。チョコのほろ苦さが口のなかに広がっていたたまれない。


「ほ、欲しいなら言えばあげたのに…」

「今度からそうするっス」

「馬鹿、」

「へー、何ならキスもしますか?この場で。人前っスけど、見せつけます?」


そう俺が言えば、周りを見渡して人が多いのを確認すると、遠慮します、と顔を青ざめ、俯いてしまった。
なんだ、人が少なきゃしてよかったのかな、なんて思ったが、兎に角人がいれば駄目だとか言われそうなので、口にしないでおく。


「じゃあもう一口下さい」

「どうぞ、」

「なんスかそれ」

「え?」

「だから、何で皿こっちにまわすんスか」

「普通でしょ?」

「いやここはあーんでしょ」


どうも先輩はきっぱり言い切られるのに弱いらしく、渋々顔を赤らめてあーんしてくれた。
俺、先輩が食べたい。なんて口走らないように抑えるのに何かと必死だ。
そんなやり取りの末、ケーキを完食した先輩の間を見計らい、喫茶店を出た。
22|05[か細い手を引く]

 

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