「うっわ…」 もう遅いのは分かっていても、慌てて先輩の手を引き、俺の後ろに隠すように立たせる。焦る俺は、頭だけは冷静で、不安そうにジャージの裾を両手でしっかりと掴み、背中に頭をすりよせる先輩が可愛くてしょうがなかった。 「黄瀬くん、ですよね?」 「黄瀬だと?おい、お前…」 喫茶店を出て少し歩いた所に遭遇してしまったのは、青峰っちと黒子っち。 唖然とした2人は、きっとみすみす俺を逃がしてくれはしないだろう。 「奇遇っスね」 「ごまかすんじゃねえよ。その女、今日の試合見に来てただろうが!」 「そっスね」 「くそ、お前の女かよ!どうりでお前があんなに執着する訳だよ」 「そうっス。だからもうここで…」 「逃がさねえよ」 「青峰くん、往生際が悪いです」 そう青峰っちに膝かっくんする黒子っちにはこれから頭が上がらない気がする。 と、今まですりよせていた頭を上げて、俺横から顔を出した先輩は俺に問いかけた。 「黄瀬くん、友達?」 「そ。青峰っちと黒子っちっス」 そうおのおの指せば、今度こそジャージを離して、横にしっかりと立った先輩は、彼らと向き合い、軽くお辞儀をする。 「みょうじなまえです」 「確か、高校生でしたよね?」 「聞いてたの?そうだよ。見えないかもしれないけど、一応高一」 黒子っちは全然見えますよ、と珍しくわかりやすいフォローをいれ、彼らしからぬ笑みを浮かべた。 対する青峰っちは黙ってただただ先輩をまじまじ見つめる状態なので、ちょっとマジやめてほしい。 「青峰っち、満足したでしょ?先輩、帰りましょう」 「うん!バイバイ、青峰くん、黒子くん!」 「また明日」 笑顔で手を振る先輩の手を引き、その場を去る。 駅に着いて電車に乗り込み、一息つけるかと思いきや、あいにくの混み合う時間帯だったらしく、人が多かったので、角に先輩を庇うようにして立つ。 周りはイヤホンを着けた人ばかりだったが、やはり小さめの声で話す。 「手振らなくたっていいのに」 「駄目だよ。黄瀬くんのチームメイトだもん」 「俺以外の男なんかと仲良くする必要ないっスから」 「世の中そういう訳にもいかないもん」 「先輩妙なとこ現実的ですね。そこは普通おとなしく肯定しときません?」 「嘘はいけないよ」 そうへにゃっと笑う先輩には勝てそうにない。だが負ける気もしないので、仕返しにシャツの中に手を入れてくびれのラインを焦らしながら撫でてやる。 手を掴んでもその程度の力じゃまず差し障りないから、そのまま続けていると、涙目でこちらを睨みながら腰を揺らすから、可愛くてしょうがない。もうちょっと上に手を上げないだけでも俺の理性は出来た方だと思う。 「ヤだ…」 「俺が嫌っス。先輩がそうやって他の男と仲良くするなら、俺はもっと仲良くなきゃ嫌だ。俺かなり独占欲強いの、知ってますよね?」 「知らない」 「俺は先輩の特別でいたいんス。なんなら俺なしじゃいられない体にしてあげましょっか?」 「黄瀬くんは特別」 「先輩がそう思ってても、目に見えてわかる何かが欲しいんスよ、俺。女々しいとか言わせないっス」 シャツから手を抜いて、先輩の顎に手を掛け、更に顔を上げさせると、不安気に目を逸らし、口を開いた。 「駅着いたよ、」 タイミング良く、少し後ろのドアが開き、人が移動し始めた。乗り過ごすつもりはさらさらない為、先輩の手を握り、電車を降りた。 |