Runaway train
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「おーい、…コラみょうじ起きろよ!」
「うぉわ!高尾くん、終わったの!?」
「そうだわ!何回呼んだと思ってんだよ!危うくキレて帰るとこだったぞ!俺キレやすいんだぞ!超怖ぇんだぞ!」
「…っぷ!」
「ちょ、おま!今笑っただろ!こいつ昼間不良に囲まれて動けなくなってたくせにって思って笑っただろ!」
つらつらと文句を言い続ける高尾くんを横目に、たった今高尾くんが入ってきたと思われる障子の隙間から中庭越しにお父さんの部屋を見る。
あれが先程まで高尾くんとお父さんが話していた場所で、高尾くんを連れて早々お父さんに外にいるように言われたから、この部屋で待っていたんだけど、どうやら寝てしまっていたらしい。すごく懐かしい夢を見た。
「…聞かねえの?俺がお前のオヤジに何て言われたか」
「うん聞きたい。教えて」
「お前さ、変わってるってよく言われねえ?」
「個性的って言おうよ」
「…じゃあそう言うことにしてやるよ」
ついに折れた高尾くんは溜め息をついて、見下ろしていた体勢から私の座る目の前に胡座をかいて座った。
「うちの門弟になれって、言われた」
「…門、弟?」
「一週間っていう期間限定で、部活にも影響がないように時間は考えるって。昼間みたく押しに負けなくなる、男らしく強くなるなんてオプション付き」
「やるの?」
「しょうがねえじゃん?それに、悪い話じゃねえだろ?一週間だし」
頭の後ろに手を組み飄々と笑う高尾くんはだいぶお父さんに騙されてる。
うちの道場はそんなに甘くない。普段部活で鍛えてるからってその過酷さは生まれてこの方ほぼ毎日続けている私でも辛いのに。絶対に性別、経歴、全部関係なしに練習させるのがモットーで、現にお父さんもみんなと同じメニューをかかしたことはない。高尾くん、大丈夫?
「いいの?うち厳しいよ。あの父親の見た目とか雰囲気からは想像できない程厳しいよ。あのオヤジに騙されたら痛い目みるよ。泣くよ、号泣だよ」
「確かにみょうじのオヤジ優男だよな。なんかこう、がっしりで胸毛もぶわは!っての想像してたんだけどさ、俺のオヤジより断然若えよ」
「それに騙されて今まで何人犠牲になったことか」
「大丈夫だろ!伊達に部活で鍛えてる訳じゃねえんだぞ!見よこの力こぶ、ほらほら!」
「言うほどでもないよ。何なら私の…」
「あああ!袖捲ろうとすんな!自信無くすから!俺はまだ真実を知りたくないから!」
袖を捲ろうとした手を高尾くんに掴まれ、しょうがないなと手を下ろせば、安所した高尾くんはホッと息をついて改めてきちんと座った。
「大丈夫だから。辛いかもしれないけどさ、俺にも利益のある話な訳だし、それに…」
「それに?」
「…当然、バラしたお前にもなんか罰則はあるんだろうが」
いきなりの真剣な瞳に声を出せずにいると、へにゃっと笑った高尾くんはこちらの頭をぐしゃくしゃと撫でた。
「だからさ、」
俺にも責任とらせてくれよ。