Runaway train

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言葉通り、でかい道場の裏に回ると道場とは渡り廊下一本で繋がれた母屋があり、中に通された。
少し歩いて思ったのだが、この道場、本当に住宅街にあるのかと言いたくなる程敷地もでかい。もう二月ほど前に来ていたら満開だっただろう桜に、秋になかったら綺麗に色付くだろう紅葉にイチョウといった、手入れの行き届いた木々が立ち並び、鯉の泳ぐ池は青く澄んでいる。まさに、絵に描いたような日本庭園だ。
掟やら何やらも、これだけのお嬢様のことなら納得できないことはない。


「今、お父さんは弟子達の稽古を見てるの。もう少ししたら終わるから、ここで待ってもらうね」

「何?みょうじさんのお父さんに会うの?」

「そう。本格的な話はそこからなんだけど、軽い説明は今から私がするね」


居間に入っていったみょうじは、話しながらも座布団を用意し、俺に座るよう促した。あまりに自然な動きに、のしかかる疑問や不安を忘れ、すぐさま座ってしまうのだった。


「じゃあまず、巻き込んでごめんね。高尾くん」

「いや、助けてもらったんだし。俺今から絞められる、訳じゃないんだよな…?」

「勿論!ただ色々面倒なことがあるんだけどね」

「面倒なこと、ね…」

「そうなんだ。まず私、将来はこの道場を引き継ぐの」


次いで語られた。女の師範は異例ではないが、男の場合とは違って18歳になるまで家族と弟子達以外には決して道場の娘であると、ましてや将来師範になるなどと知られないのだと。
確かにそんな事を学校で大っぴらにされたら、青春を謳歌するのにすこし壁になるかもしれない。


「俺そんなやばいのに関わっちゃったのかよ」

「私も詳しくは聞かせてもらえてないんだよ。だから、何でそんなにこだわるのかも、よくわかんないんだけどね」

「そっか、」

「あ!そろそろ稽古終わるから、行こうか」

「え、やっぱ行くの?」

「そんな緊張しなくても大丈夫だと思うよ」


振り返った彼女は、そうへにゃりと笑うが、こればかりはどうも緊張せざるを得ない。
ごくり、と俺はらしくもなく喉を鳴らした。
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