Runaway train
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なまえね、今すっごく嬉しいの。お父さんが、幼稚園に行かせてくれるって言って、お家から手を繋いできたから、すっごく嬉しいんだ。でもね、ちょっと怖いかな。
今までずっと一人でお家からでちゃだめって言われてたから、お兄ちゃんやお父さんの弟子の男の子達としかおしゃべりしたことなかったから、他の子と仲良くできるか、ちょっと心配。
だから、お父さんに今日の事を言われてから毎日お父さんと練習したんだよ。お兄ちゃんに馬鹿にされたけど、頑張ったよ。でも、大丈夫かな。
また心配になったから、お父さんを見上げれば、お父さんもこっちを見てニコって笑ってくれた。そんなお父さんは、それから歩くのを止めて、しゃがんでなまえの頭に手をのっけてぐしゃくしゃにした。
もう、せっかくお兄ちゃんに髪可愛くしてもらったのに!って言おうと思ってお父さんを見たら、何でかいつもより真面目な顔でびっくりしちゃった。
「いいかなまえ、絶対にバレちゃいけないよ。家が道場だって」
「なんで?」
「ごめんな。でも、決まりなんだ。だから外では、お父さんのお仕事は?って聞かれたら、サラリーマンです。とか言って誤魔化すんだ。いや、ここは格好良くパイロットとか、デザイナーとか…まあいいや。なまえの好きなように誤魔化せばいいから」
「わかった!じゃあ、なまえちゃんのお父さん何のお仕事?って聞かれたら料理人って答えるね!」
「お!いいぞ。それは思い付かなかった。格好いいな。お父さん鼻が高いよ」
「でもね、料理人って、嘘じゃないよね!だって、お父さんが作ってくれるご飯、すっごく美味しいもん!なまえは一番たらこスッパ、あれ?スパゲッティ…違う。…そう、スパッゲティ!あれ大好きなんだよ!」
「お父さん嬉しいよ。泣きそう。でも2番目が正解だよ。スパゲッティが正解だよ」
そうなんだ!スパゲッティ、スパゲッティ…よしきた、今度はちゃんと覚えたよ!
「やっぱりお父さん料理人だね!物知りだもん!ねえ、今から幼稚園に着くまで食べ物のしりとりしようよ!」
「ふははは!毎日なまえと要の弁当作ってるプロも吃驚の腕のシェフ、このお父さんに勝負を挑もうとはこの命知らずめ!」
「しぇふ…?」
「平たく言えば料理人のこと。よしなまえ、全力でかかってこい!」
うん!って言おうと思ったけど、お父さんがいきなりなまえを持ち上げて肩車しちゃってうまく言えなかった。うぉ!って言っちゃった。
そのまま歩くから、なまえもそのまま考える。えーと、えーっと…
「高菜!」
「お!なまえ渋いチョイスだ。我が娘ながら惚れ惚れするよ。だが残念、"な"はお父さんの十八番だ。大好物だ。必殺、なめ茸!」
「け?け…あれ、何かある?」
「ケチャップがあるだろ!」
そんな声が下からした。そっか、ケチャップも食べ物だよね、たぶん。
悔しくて、たった今走ってきたお兄ちゃんを見下ろす。あれ、何か持ってるよ。
「要!いないと思ったら今来たか、コラ迷子になりやがって!」
「誰が迷子だ!お前らが先に出て行ったからだろ?ルンルンで出て行ったからだろ?何で朝から走らなくちゃいけねえんだよ!ちょっと寂しかったじゃねえか!」
お兄ちゃんは大きな声を上げて、何だか怒ってるみたい。お兄ちゃんは来年で小学校だけど、こんなに怒りんぼうでいっぱいお友達できるのかな。
「そうだったか?…っておい拗ねるなよ!おんぶしてやろうか?もう肩車は無理だけどな!」
「いいわ!全力で拒否するわ!つうかこれ、朝からいつもより張り切って作っておいて忘れんなよ!」
「おお、悪い!でもお前崩してないだろうな!」
「そう言うと思って崩さないようにデリケートに走ったっての。てか何だよこれ重箱じゃねえか!ふざけんなよ俺のいつもの弁当とどんだけ差別してんだ!」
「要も食うんだからいいだろ?」
「大学芋入れたか?」
「勿論だろ」
「よっしゃ!てか父ちゃん、時間は?」
そうお兄ちゃんに聞かれて、お父さんはズボンのポケットから携帯を出して時間を見たら、肩がビクッてしてなまえもビクッてなった。
「やべえ急ぐぞ!要やっぱおぶるわ!走るぞ、入園式に遅らすなんて親失格だ!」
「弁当崩すなよ!俺が死守した弁当だぞ!」
背中にひょいと飛び乗ったお兄ちゃんをちゃんとおんぶして、すぐに走り出した。ビュンビュン風を切って気持ちいいけど、ちょっと待って、忘れてるよ!
「お父さんしりとりは?プは?ケチャップのプは?」
「プリン!はい終わり!」
「コラ要!しりとりは続けるぞ、走りながら続けるぞ!プレミアムケーキ!」
「それありかよ!」
「きなこ!」
「こんぶ!」