Runaway train

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疲れた。この数分でとんでもなく疲れた。みょうじが座ったのを確認し、それが妥当だと俺も次いで座り込む。気分的に顔は上がらない。


「アシタカ、」

「おいまだそれ続けんの?……いや、気に入ってんなら良いけどさ」


どこにそんな元気が残っているのか、こいつはこうも俺の一言一言に一喜一憂し、コロコロと表情を変えやがる。つうかそんなにアシタカ気に入ってんのか、ちょっと嬉しいじゃねえのよ。


「あのさ、今言う話じゃないかもしれないけどさ、」

「え?なに告白?ちょっと、水玉ぱんつは遠慮するわ。もっと大人っぽいのはけるようになってから出直してこい」

「違 う わ !失礼な奴だな、そして自意識過剰だな!全然その気じゃなかったのになんか傷付いたよ!どうしてくれる!」

「うわ何この不思議な敗北感。そこまでストレートな眼中にない発言はないわ。ちょっと傷付いたわ」


そこからのしばしの沈黙の後、改めてみょうじが言った。


「あのね、私、今まで生きてきて一杯嘘ついてきたんだよ。お父さんは料亭で働いてるとか、いつかお家に遊びに来てねとか、普通の人より一杯嘘ついて生きてきた」


その瞳は、儚い。


「だから、不良に絡まれたり、いじめられてたりしてるのを見つけても、無視してた。バレたらいけないんだって、目を背けてたんだ」


そこで、視線を上げたみょうじは、真っ直ぐ俺を射抜かんばかりに見つめるのだ。


「でも、昨日アシタカが女の子助けてるの見て、やっぱいけないなって、思ってね」


だから、やっちゃったの。ふにゃりと笑ったみょうじは、俺から視線を外したが、どこを見るでもなく、例えるからどこか遠い所を見ているようなに続けた。


「大袈裟かもしれないけど、アシタカは私にとって英雄なんだよ」


そこでアシタカとか言われると世界観がまるで違い過ぎて感動も薄れるものだが、それにしてもこの女、言う。恥ずかしくないのか。


「違えよ、そんな大それたもんじゃ」


結果的に俺が助けられた訳だし、


「結局は、お前が自分で踏み出した訳だし」


お前が言うのが本当でも、俺はそれのきっかけに過ぎない。まあ、そんなふうに言ってもらえて、当然嬉しいし、なんかむず痒いけど。人の役に立つ嬉しさって、こんなのなんかな。


「ほら、人来んぜ。足音するだろ?それに声的に男だな」

「じゃあ隠れてる!」


そう言って、何故かウキウキと物陰に隠れたみょうじを横目に、俺は扉の前に立つ。そして直ぐに、ガチャリと鍵の開く音が聞こえ、俺は自ら両開きの扉を両手で豪快に開ける。


「あら、和成くんじゃない」


目の前に移るのは、学年1の巨体として知られる女子、いやもう女子とすら呼びがたい女子、星崎だった。
まさか、さっき聞こえたのは男子の声だった。が、周りには星崎以外の人影はない。いくらこいつの声が低めだからって、俺最低だ。つうか何?あんなに大きな声は独り言な訳?


「ここで和成くんを私が助けるなんて運命としか言いようがないわ!これはきっと何かの始まりよ!」

「いや、きっと気のせいだな」


俺は今世紀最大の愛想笑いで、倉庫を後にする。

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