Runaway train

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稽古を終えてわかった事。こいつは、


「…女じゃない」

「褒め言葉」


そう笑ったみょうじは、床に座り込み息を整える俺とは違い、息一つ乱れていない。加えてよく磨かれた床は鏡の如く俺の情けない姿を映し込み、あげくその自身と目が合うものだから、不甲斐なさでもうたくさんだ。


「お前さあ、それ着たら性格変わる訳?面白い奴だわ、マジで」

「別に違わないでしょ。百歩譲って違うとしても、どっちが本当の自分かなんてもうわかんない」

「…今じゃね?」

「さあね。…そうだ、お父さんがご飯食べてばいいのにって言ってた。どうする?随分張り切ってたけど」

「丁重にお断りします。もう帰りたいわ。つか動けねえ。おぶって」


昨日は帰り送ってもらうの拒否ったけど、今なら絶対大人しく送ってもらう。あれはまだ女だと思ってたから。だがもう一度言うけど、あれほど激しい稽古にも平然と構えるこいつは、女じゃない。星崎の方がまだ女らしいと断言できる。なんだこいつ、新手のミュータントか。


「やだ。私も無駄に今日二回も同じことしたから疲れた。だからやだ」

「その面のどこが疲れてんだ、あ?言ってみろ」

「目が疲れたって言ってる。私も同意見。これで疲れないなら私は新手のエイリアンだわ。新発見だわ」

「奇遇だな、俺も同系統の発想だった。それとお前の目と全ての感覚器官さんに言っとけ、お前はまだあんま疲れてねえって。全くの誤解だって。つかマジで動けねえの!だからおぶって」


そう言ったらみょうじは溜め息を吐きつつも俺をおぶってくれるみたいで、俺に背を向けてしゃがんんだ。
再確認、やっぱこいつ女じゃねえわ。


「大好き、なまえちゃん」

「なにそれ、」

「ほらここみょうじばっかじゃん。え、もっと違うのがいい?ミュータントとかがいい?」

「何でもいいよ」

「何だよ、自分は呼び方こだわる癖して自分の呼ばれ方に関しては無関心なのかよ」

「…アシタカ汗臭い。まずお風呂ね」

「なまえちゃんひどーい」

「あがったらアイスまんじゅうあるから、頑張ろうぜ」

「やったー」


よいしょ、とやはり女らしからぬ声をあげたかと思うと、有無を言わさず母屋に向かって行く。その足取りは、多少辛そうではあるけれど十分大丈夫そう。安心した俺は、俺より小さいその背中に顔をうずめ、しばし引き続き体を休めるのだった。

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