「(おいおいおいおい!)」 ――…バレたら何て言うよ、え?従兄弟とか言っちゃう?今日久々に会ってーとか言っちゃう? 「さあみんな、500円以内に抑えなさいよ」 「うわあ、セコ!練習試合の勝利記念ならさぁ、もっとこう…」 「何か言ったかしら…?」 「いえ、何も」 「やべえよ黒子!火神500円って聞いて固まっちまった!」 「大丈夫ですか?火神くん」 「…ああ、自腹切るわ」 「うわあ、出たわ。一人暮らしのくせしてそのボンボン発言」 ――…気付かない!予想外にも気付かないぞ!俺ミスディレクション出来るんじゃね?今度挑戦するわ。 何だかんだ勢揃いの誠凛メンバーは、なんともまあ、すぐさまタオルを被った俺に気付かない。それどころか、もう色あせて若干茶色っぽい、壁に張られたメニュー表の数々に目をやっている。 「アシタカ、」 「(今だから思う。あだ名万歳!)」 「人多くなったし、帰ろうか」 俺は声を出せない分、懸命に頷く。首を傾げながらも、わかってくれたなまえちゃんは、横に声をかける。 「さあ太一くん、帰ろ…、太一くん?」 宮野さんがいる筈だった席は既に空席。なんてこった、忘れてたけど、この人ら誠凛だった。 「日向奇遇だな!」 「おう、お前も来てたのか」 「あ、宮野じゃん!お前もここ常連?」 「小金井も奇遇だな。そ!俺もうここの店主と親友レベルなんだぜ!だがまあ、店構えが古いのが玉に瑕だけど、まあそれも味だよな!」 「あーそれわかる!」 中田さん曰わく、特にバスケ部とは仲が良い訳ではないが、持ち前の社交性から浅く広く友達が多く、誰とでもわりと話せるらしい宮野さんは、誰よりも早くあちらへと自然に入り込んでいった。 そして、恐れていた事態が、ついに起ころうとする。 「おお!中田もいんじゃん!」 「こんにちは」 「で、そっちは」 そう指すのはなまえちゃん。セーフセーフ!まあ、バレるのも時間の問題なんだろうけど。 「おいお嬢、さっさと自己紹介しろや」 「「「(お嬢…!?)」」」 「(知らない人の前でお嬢とか言うなよ)どうも、みょうじなまえです」 「ど、どっちの彼女?」 「ちげーよ。誰がこんな貧乳馬鹿力女と。コイツの兄ちゃんとダチで、面倒見させられてるだけだよ。太一くん可哀想だろ?」 うわー宮野さん、あっちの監督にめっちゃ睨まれてるよ。敵にまわしたよ。 「あと、そのタオル被ってるのは?」 「ああ。コイツは、」 「宮野、口が過ぎますよ」 大好き。もう中田さん大好き。と、安心するのもつかの間。 何故か俺の被ったタオルは宙に浮き、いや、正しく言うと持ち上げられた。その人こそ、 「(馬鹿か、馬鹿かお前!)」 黒子テツヤだ。ごめん、やっぱお前の影の薄さには勝てないわ。俺自惚れてたわ。 「「「高尾!」」」 指を指して驚く者、口をあんぐり開けて驚く者、立ち上がる者、口から漬け物をポトリと落とす者、皆がみんな、俺を見て仰天する。 「…どうも、ちわーっス」 俺は苦笑いしかできなかった。 |