「高尾くん、アイス買いにいきましょうか」 これが、公園に着くなり、中田さんが呟いた言葉だ。あまりに唐突なそれに、一瞬思考がショートするのも無理はなかった。 「お、いいなバスケ部の奴らに恩を売っとくのも」 「じゃあ割り勘か!」 「四分の一だからな…、」 「え、俺も入るの?ラーメン代俺持ちだったっつーのに?」 「「勿論!」」 「…わかりましたよ」 というのも、結構前の話で、俺は中田さんとコンビニに向かって歩いていた。と、何故か少し前を歩いていた中田さんが不意にこちらを振り返る。不思議と俺も止まらないといけない気がして、次いで立ち止まる。 「高尾くん、聞いたんですよね、お嬢の母親のこと」 「はぁ、触りだけ」 「触りとは、どこまででしょう?」 「昨日が命日で、なまえちゃんが自分の責任だと思ってるってことくらいっスかね」 「そうですか。…私でよければ、聞きたいことはありませんか?」 そりゃあるさ、一杯。 「じゃあ聞きますけど、中田さんや宮野さんは…全部知ってるんですか?」 「いや、私の知ることもほんのわずかです。ですが、宮野はほぼ知っているようですがね」 「なんで宮野さんが?」 二年くらい早く入門したからって、それは可笑しいと思う。すると中田さんは、俺からやや視線を逸らして、答えた。 「お嬢の母親は、宮野の姉なんですよ」 「…は?」 「正確に言うと義姉ですね。親の再婚で、片方だけ血が繋がっているんです。ですが、歳の差がありましたし、自分の子供と同じ位の弟でしたから、相当可愛がれたそうで」 「昼ドラ臭が否めないっスね」 「私もそう思います。ですがまあ、宮野はほぼ生まれた時から、あの家族と繋がりがあったんです」 ああ、何か納得。 「じゃあ、要さんって…」 「ああ、彼はお嬢の兄です。もともと彼が次期師範だった所を、中学に上がる頃に家出されたため、今ではお嬢が次期後継者なっているのです」 「だから…」 だから椿さんは、わざわざあの時、男の例まであげたのか。どちらかがもしいなくなってもかまわないようにという、辻褄のあった話だ。 「…なんで家出を?」 「そこあたりは詳しくは知りませんが、年々師範との仲が悪化しまして。最後の年には爆発的に言い合って、それが最後になりました」 「なんでまた、」 「それは、お嬢達の母親が亡くなった時、師範が葬式を催さなく、墓も建てなかった事を、あの人がよく思っていなかったからです」 聞けば聞く程、次々と疑問は溢れるばかりだ。 「ですから、お嬢は人が言い合ったり、険悪な雰囲気になったりするのが心底嫌なんですよ」 確信に、触れてしまった。 |