『何かあれば俺を頼って下さい』 彼は何気なく言ってくれたのかもしれない。それに、芸能界の社交辞令のように言われる事は多々あった。それを言われたその時も、それと同じ類だと思って疑わなかった。でも、 ――…黄瀬くんだけは、実際に私を助けてくれた。 何度も何度も。しかしそれに見返りを求めようとはしなかった。確かにそういう現状に当たったから流れで、と言われればそれまでかもしれない。今ならわかる。 『俺、先輩の事好きかも』 あの日言われたその言葉。曖昧なそれを言われるまでに、私は既に彼に溺れていたのだ。恋愛感情抜きにして、人として。 どうしてこんなに優しいの。 どうしてこんなに輝いてるの。 私を、守ってくれるの。 「黄瀬くん…」 私はあなたに溺れていたんだよ。 黄瀬くんが私に何の感情も抱いてなかったとしても、その気持ちに嘘はない。恥ずかしくなんかないよね。 「(ありがとう)」 そう何もかもを受け入れたつもりで、本当はすごくすごく怖かったのだけれど、私は目を閉じる。せめてもの反抗心だ。 「おい、男の名前呟くわりにはえらく従順じゃねぇか」 「でも俺気にくわねー。こういう頭よくて聞き分け良いのじゃなくて、馬鹿でよく鳴くのがいい」 「お前性格悪いよ」 「今更だろ?じゃあ俺から、」 そうブラをたくしあげられて胸を捕まれる。その瞬間、嫌悪感で一杯になる。気持ち悪い。何より、自分が。 嫌で嫌でたまらなくて、柄にもなく泣きそうになってしまった時。 ドンッ 鈍い音が、響いた。 |