3b

□日常。
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「ね、ね」


スタジオの中央のソファー。
ベースとノートとを睨めっこしていると、恋人の腕が僕の腰に絡み付く。
あからさまな猫なで声に、甘えたいのだと気づく。


いつからかこんな風に当たり前になったけれど、出会った当初は大変苦労した意志疎通を心の中で笑った。


「なあに?竜ちゃん」

自らもその甘い香りのする体にすり寄った。
スタジオの片隅、同い年からの突き刺さる視線も無視。
キョトンと頬を染める新メンバーも、ごめんね。無視。

最近、思う。
バンド内で一番、公私の使い分けができていないのは自分じゃないかな。と。

それこそ付き合い初めの頃はスタジオではぎゅう禁止。ちゅう禁止。
人差し指を恋人の鼻っ面に突きつけたもんだったけど…。

いつだったかをきっかけに。ああもういいかーなんて思考へと堕落して、
中ちゃんからの小言を受けながら、それもまあ幸せだな。なんて感じてしまった。

年とったなー。
甘えることに抵抗がなくなった。
頼ることが恥ずかしくなくなった。

それは俺的には「いい年の取り方」ってやつなんだけど。


さらさらの黒髪に指を通せば、彼の飼い猫みたいにその黒目が細まる。
僕が笑えば、彼もまた笑う。


スタジオ内の異様な空気。

目をくりくりにして驚いているケンケンには申し訳ないけど、その目は瞑っていただくこととする。


唇と唇が近くなった僕らみたいに。


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