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□ただいま。
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承太郎の口が僕の言葉を塞ぐ。
今までこんなことなかったのに、と、早鐘を打つ左胸とは裏腹に頭の中はひどく冷静だった。
包まれるたくましい腕で体が軋む。少し痛いな。
けれど触れあう暖かさに目蓋がまた重くなる。
それをさせまいとするかのように、承太郎は僕の頬を小さく叩いた。
「 い、たいよ」
へらりと笑えば、恋人の眉毛は切なげに歪められた。
涙が今にも零れそうにキラキラと光る青色の瞳が綺麗だ。覗きこんで、懐かしい気分になる。
あれから、
あの宿敵DIOとの戦いから僕はどうなっていたんだろう?
記憶の最後の彼よりも髪がわずかに長い気がするし。
問いたい言葉は声にならずに口内を乾かした。パクパク動いただけの力ない唇をまた承太郎が塞ぐ。
いつだって僕の話を聞いてくれて、それでいて、
もう話すことはないか?しばらくは唇が不自由するぜ。
だなんて女の子が聞いたら卒倒しちゃいそうな甘い台詞で最終確認するみたいに。そうしてからキスを仕掛けてくる君なのに。
僕の問いは恋人の珍しい涙に流されてしまった。
「、馬鹿野郎」
小さく何度も何度もキスと一緒に降ったそれは、愛されていると知るには充分な優しいトーンで。
すう、とまだ不自由な呼吸によって胸を満たした香水の匂いと耳から入りこむバスにくらくらした。
一年も眠っていたのか。
まだ霞みがかった頭へ愛しい声を流し込み、状況の理解へ導く。うんうん頷くのも億劫で、鼻で小さく音を漏らす。
それを返事と理解してくれた恋人。
通じあっている感覚。そんな些細なことが僕の中をまたぽかぽかと暖めた。
「 そ、か」
一年。
一年ぶり。
まるで星の河をまたぐ恋人たちみたいだね。
眠っていた僕には一瞬のような意識が、恋人にはどんなに長かったことだろう。
果たしてそれが自分だったなら。たぶんきっと、おかしくなってしまうだろうな。
だって君がこんなにも余裕をなくしてる。
いつだって人が周りに絶えないこんな人気者を、こんな僕を待つことに疲れさせてしまっただなんて。
特別な気分だ。
嬉しくなっちゃうなんて、駄目な僕。
君に言ったら怒られちゃいそうだし、唇もなかなか動かないことだし、黙っておきます。はい。
いつまでも離れようとしない体も、君の力で痛む傷口も、
んもう。許すしかないじゃないか。
(、ただいま)
( もう少しでも遅かったらてめえ、浮気でもしてやろうかと思ったぜ)
(あはは、ギリギリセーフ、かな)
またキスを一つ。
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