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□ハピハパバースデイ。
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編集者からのFAXには祝いの言葉が並べられている。
興味もないそれをちぎってゴミに変えた。
紅茶を置き去りにするような内容じゃあなかったな。溜め息一つを吐きだし、部屋のテーブルの上、温くなったそれを一気に飲み下した。
インターホンが鳴る。
時計を見、予想のついた訪ね人にまた溜め息。重い腰を上げたのはベルがしつこいからだ。おまけに馬鹿デカイ声まで部屋に響く。
「あ、やっぱいた」
小さくドアを開ければ、ぽかんとした顔の東方仗助。なんだよその顔は。
いると分かってベルを鳴らし続けていたんじゃないのか。全くこのクソッタレ。
文句を言い出そうと力んだ唇は、はたりと止まった。
ぎゅっと、音がするほどに強い力でたくましい腕に閉じこめられる。息が止まる一瞬に肺を満たした恋人の匂いに胸が苦しくなった。
「…何、しに来たんだ」
本当は知ってる。恋人が何をしに、何を言いにわざわざ僕に会いに来たのかなんて。
こいつの単純明解な頭の中なんて、紙にしなくたって分かるさ。
それだけの時間を僕らは二人で生きてきた。
「押し付けがましい言葉ならいらない」
おめでとう。だなんて。
一年に一度、幸せな人にも不幸せな人にも、望まれてる人間にもそうでない人間にさえやってくる、特別な日。
実際に僕が生まれたのなんて21年前で。今日じゃあないわけで。
生まれてきたくてこうなったわけではなくて。
だけど確かに今日に言葉をくれる人間が、僕の周りにはいる。それはとても嬉しいことなんだと、こいつと出会って知った。
「お礼を言いに」
歯をだしニカリと笑って見せたあと、恋人はポケットから小さな箱を取り出す。
「あとはこれをついでに」だなんて、人の誕生日プレゼントがついで扱いか。なんて、さっきまで頭の中にあった考えの真逆の思考に自身で苦笑い。
(扱いづらいと言われてしまうのも、まあ納得はいかないが、頷けた)
「 生まれてきてくれて、ありがとう露伴」
そしてこいつもまた、本日耳を塞いでしまいたいほどに言われ続けた言葉の真逆を口にする。
「お礼の品をどうぞ」
とおちゃらけて指にはめられたシルバーに僕は、どういたしまして。と一言。笑った。
本当にお前は最高だ。
口にはしないが、いつもよりいい茶葉にその気持ちを乗せて。
最高のティータイムを。
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