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□黒枠共有。
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もはやベルの一部となっている眼鏡を恋人から外し、一通り眺める。
このレンズ一枚で世界がどう違って見えるんだろうか?作った奴も、考えた奴もすげえな。

不思議そうに恋人は俺を笑い、どうしたのかと尋ねてくる。
それを「別にー」の一言だけで返し、それを自らにかけてみた。

人並み普通な視力をもってる俺には白くぼやけて写る世界。
何一つ確かな形を持たない不思議な不安な視界。
歪んだそれに感化されたように、俺の眉間も歪んだ。

「それがないと見えないんだ」なんて苦笑いしながら、唇へと噛みついてくる恋人に。しっかり見えてるんじゃねえかよ、なんて心ん中でツッコミっつつ。キスには舌先で答える。

その時、自然に上に押し上げられた眼鏡は恋人の気遣いか。

一瞬にして視界は見慣れたクリアな世界を写し、その中には目一杯、満足そうな恋人の笑顔が写る。

頭が痛い。かき回されたみたいにグラグラとする。最悪な気分だ。
大丈夫か?と俺を心配する。フリをしてキスをしかけてくる恋人を軽くど突いた。


だけど、一つだけ。ちゃんと見えた黒い枠線。
ぼやける世界と視界のほんの隅のクリアな世界とを隔てるその黒枠に。恋人と同じ景色をかいま味わえた気がして。一人、口角を上げて笑った。

不思議そうに恋人はまた俺を覗きこんでくる。フリをして、また唇を奪う。
今度は今日一番に深くて長いキスだ。それを甘い息で笑って、舌で丹念に返す。


ただ、一瞬、なんとも言えず、幸せだった、だけ。




(…あまり可愛いことをしないでくれハニー)

視界の隅で困った顔のベルが笑った。

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