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きみがぼくをえらぶのなら

50話の先を妄想


先導アイチは律義に頭を下げて、ごめんなさい、と言った。

「ごめんなさい、僕はやっぱりレンさんとは行けません。Q4に帰って、みんなにちゃんと謝ります」

口調は揺れている。
自信があるわけではないのだろう。

仲間に申し訳ないことをした。
自分の態度は目に余っただろう。
勝手だった。
ひどいことを言って傷つけた。

許してもらえるかは、わからない。
けれど謝罪に行くと決めたことに対して、揺るぎない正しさを感じている。

だから、揺れる声は小さくても、姿勢は俯き加減でも、その意思は真っ直ぐに響く。

正しくて真っ直ぐか。
櫂に似ているね。

レンはつまらなそうに、目の前の少年を見ていた。

「だから、これは受け取れません。お返しします」

アイチは卓上に、取り出したデッキを置く。

FF本部をひとりで訪ねてきたアイチに、レンは普段のように私室ではなく、応接室で相対していた。
PSYクオリアは、保持者のあいだで繋がって、響き合う。
プライベートで逢うような関係は終わったと、レンにもわかっていた。

硝子の卓を挟んで、豪奢な応接セットに腰かけて向き合うふたりは、まるでビジネスライクで、かつての親密さを欠片も感じさせない。

「べつに返す必要はないよ。きみにあげたものだ」

レンは差し出されたカードの山に手をかけると、アイチの前に滑らせる。

「けれど僕は、」

アイチは言いにくそうに、口ごもった。
レンの目を真っ直ぐに見ていたのは少しの間で、会話が始まると、目を伏せていることの方が多い。

拒絶という行為に慣れていないな、と、レンは冷静に観察する。

「……けれど、レンさんの元に僕は行けないんです。このデッキは、僕が貴方の隣で戦うことを条件に下さったものです。受け取ることはできません」

手元に落ちていた視線が、言葉と同時にきりりと持ち上がって、レンを正面から見据えた。

「ばかだね、」

レンが、ひくく、呟くと。
アイチは背筋を伸ばしたその気高さを、あっけなく手放して、俯く。

それでも。

「何と言ってくれてもいいです、けれど僕は帰らないと。こんな僕を信じて待っていてくれた仲間のところへ」

気弱げなのに、揺るぎない、そんな笑顔を見せた。

「ばかと言ったのはそのことじゃない。きみはきみの自由に、どこへなりと行くがいい。僕に拘束する権利はないよ」

レンは大げさに、ひとつ、溜息を吐く。
その意味を理解しない顔のアイチに、ひた、と視線を据えて、言葉を重ねた。

「櫂と同じ種類のばかなのかな。いや、僕からしたらね、世の中のファイターは大概がばかだ。救い様のない、ばかどもがひしめき合って、僕は対等にたたかう相手を見出すことができない」

退屈です、なにもかも。
きみもそうなんですね。

突き放すわけではない。
見下す意図すら、そこにはないように思えた。
レンは、現状を、思うまま感じるままに口にしているようだ。

アイチは言葉に詰まった。
レンと対等に、たたかう。
それは自分には到底無理で、であるなら、何を言っても絵空事な気がした。

「強くなりたくないのかい?」

挑発する言葉は、以前に言われたことと同じだった。
もっと強くなりたくないかと誘われて、アイチはレンの差し出したデッキを取ったのだから。

今。
レンの口調は、その時とは全く違う。

きみは何月何日生まれ?
とでも問うように。
意気込みもなにもない、世間話のような軽さだった。

「なりたい、です。……でも、レンさんのつくったデッキで勝つことは、強くなるのは違うと思うし、シャドウパラディンは僕の性格には合わないと思いました。これからは自分でちゃんと強さということを考えて、理想のファイトを追求した、自分らしいファイターに……、」

「だから、ばかだというんだよ」

レンは珍しく、すべてを聞かずにアイチの発言を切り捨てる。

「……自分らしいってそんなに大事なの?強いことより?理想のファイトが出来たら負けてもいいの、そんなこと言ってる奴は、最初から負け犬だよねぇ」

再び、盛大な溜息をついた。

アイチは、しばらく近くに居て、同じ力で共鳴し合って、少しだけでもレンをわかった気でいたけれど、それが大いに間違いだったのではないかという気になった。

意図が読めない。

レンの元を離れるといったら、とても怒られる気がした。
……いや、もしかしたら、哀しい顔をされるかとすら思っていた。

「あの、けど、……僕は強くなる為に、みんなを切り捨てることは出来ないし、AL4に入った方が強い人に囲まれて戦えるから、成長する環境としては理想的なのかもしれないですけれど、今のチームから学ぶこともたくさんありますし……」

「だからそんな話じゃないよ。……持っていきなさい。選択肢は多い方がいい」

「……レン、さん?」
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