Works

□R×K SS
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sink(K)


43話の後を捏造。



その日は、朝早くからの雨が放課後になっても止まず、ただ夕刻遅くにつよい風が吹いたかと思うと、雨雲のどろどろとした黒が残る西の空に、おぞましいほどの落日があかく、ぎがぎらと溶け落ちていった。

制服姿のまま街をゆく櫂の前にも、木枯らしが吹きつけ、亜麻色の髪を乱す。強すぎる風を正面から受けて、反射的に目を閉じそして開けたら、緋に染まる空に刻まれた一筋の傷痕のように、漆黒の長衣にその身を包んだ端麗な男が佇んでいた。

「何をしに来た」

櫂の目元が尖る。問う声音も、必要以上に鋭い。

「きみに逢いに」

レンは殊更に明るい調子で、短く言い切った。

「嘘をつくな」

「嘘だと思うのか。きみは相変わらず残酷だね、櫂」

強い風が耳元を鳴らす音を、レンの声はするりと抜けて耳朶に届く。まるで重さもないような、舞うような、揺れるような。ただその軽やかさの奥に何を潜ませているか、わかったものではない。

「話すことはない」

傍らを擦り抜けて歩き出そうとした櫂を、レンは腕を伸ばして遮る。肩を抱くような仕草にも、見えた。

「あの頃はよかったね。きみは強くてあざやかで、僕の隣に相応しい男だった。僕が寄り添うとしたら、きみしか居なかった」

「俺は今も昔も、お前と寄り添うなど考えたこともない」

櫂は冷淡さを隠すこともなく、その手を乱暴とも言える程のつよさで、払いのけた。

「知っているよ。ただあの子はどうだろうね、きみの隣できみに並んで、きみとまるきり一対の恒星のようになりたいと願ってはいないだろうか」

レンは櫂の刺々しい態度を気にかける風でもなく、大げさな仕草で空を振り仰いだ。
夕刻の天頂に、気の早い星の光を探し出すみたいに。

ただその眸の色だけが、黒々と底知れぬ闇を溶かした、血溜まりの艶を帯びている。

「残念だったな、アイチはお前が思うように弱くはない」

「……さぁ、」

強い風が、向き合うふたりの間を吹き抜けた。レンの髪がばらりと解けて、曲線の軌跡を鈍重な冬空に描く。
黄昏の落日が、あかい髪を更に鮮やかに染め上げてゆくようだ。

鋭利な目元に。
白い頬に。
艶めいた唇に。

落ちた夕陽は、まるきり発情をあらわす紅潮に似て、レンの存在自体を拒絶しているはずの櫂を動揺させる。

今も、昔も。

「いいことを教えてあげよう」

褥に誘うようだった声音が、急速に変調した。眸の翳りが滲み出して染め変えた、そんな響きだった。
レンは続ける。

「PSYクオリアは共鳴し合う。あれは、僕とひびきあい磨かれて高まってゆくだろう。誰よりも強く、きみよりも強く」

「させない。俺は、二度と間違わない」

櫂の拒絶の一言に、あははは、と、レンは子供みたいに笑った。

「僕はきみの間違いの産物かい。櫂はいつも本当に残酷だ」

「俺が傍に居ればよかったとでも言うのか」

「まさか。きみはこの手の非力さを、少しは自覚するといい」

つめたい指先が、櫂の手を捕える。

愛撫の繊細さで、整えられた爪先が膚を辿った。

手の甲に。
指の先に。

それから、丹念に淫猥に舌が動いて、人差し指を、中指を、舐める。

くちづけさえも、拒めないのは何故だろうか。

「……けれどきみが間違えなくても、彼はどうだろう」

吐息が混ざり合う程の至近で。
笑みの混ざった声で。

レンは櫂を挑発する。

「言ったはずだ、PSYクオリアは共鳴する。先導アイチは僕を選ぶよ」

「何をする気だ」

なにをしてほしいの、と。

耳元に囁く声は、幾度も、毎夜、身体をかさねた過去を引き摺り出す。
反射的に払いのけると、爪の先におかしな手ごたえがあって。

頬にひとすじ走った紅い血の線を、白い指で掬って、レンは満足げに目を細めた。
指先から舌の上に血滴を乗せて、櫂に見せつけるようにして舐め取る。

「きみはひとを憎んだことがあるか。僕はきみの、うまれて初めての憎悪が欲しい」

言葉は沈み込むようだ。

重く重く。
低く低く。

地の底に在るという、多分地獄まで。

レンは自分を憎んでいるだろうか。

櫂は想像を巡らせる。
けれど二人の間には齟齬しかなく、今の櫂では、目の前に居るというのに、この男が何を考えているのか、まるでわからなかった。
そもそも、自分はどうなのだろうか。

レンを憎んでいる?
レンを厭うている?
レンに執着がある?


レンを、

愛していた?


全てが真実であるようにも、偽りであるようにも思えた。
真偽の境界は霧に似て、そのぼんやりとした曖昧さが、櫂には許せない。

憎悪、という言葉の昏いひびきが、いつまでも耳に残る。

それは、立ち去るレンが櫂に仕掛けた、呪詛なのかもしれなかった。









明日の放映を機に、どう考えてもレン櫂週間が始まると思います!
前哨戦として、ウスラボンヤリと温いレン櫂話をやってみました。
徐々にレン櫂ヴィジョンが自分の中で整っております。整えてから書き始めるべき←
来週はえっちぃの書くでー。

過去編は、櫂くんはレンくんをやりてぇと思ってるけど、実際に始めてみたらやられちゃう感じだといい!

2011.12.16
2020字

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