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□DC/男子・中二
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レンはその日、ひどく薄汚れた格好で学校に来た。髪には艶がないし、白い頬にも手の甲にも灰色の汚れが目立つ。普段は隙なくぴしりと着こなす制服も、ところどころ皺が寄っていた。
櫂が事情を訊くと、
「玄関で寝たから」
茫洋と返って来た答えは、意味がわからない。
よくよく話を聞くと、鍵を紛失して家に入れなかったということだった。
「鍵屋さんを呼んで、交換して貰うんだけど、……面倒だなぁ今年これで三回目だよ」
レンは机の上にばったりと伏せながらぼやいた。
「電話しろ、俺にでもテツにでも」
「携帯は家の中―」
返す声に力がない。
「携帯電話は携帯しろ」
「重いよね、あれ」
レンの答えは相変わらず無気力だった。
何を言っても無駄だろう。
「わかった。では俺とファイトだ。お前が負けたら、携帯電話は携帯する、いいな」
「は!言うね櫂。僕は自由がかかるとなると、強いよ?」
挑発するみたいに、レンは嗤った。
……色々上からな割には、さほど強くもなかった。
レンは元々ムラ気があって、集中し始めると恐ろしく強くなるが、だらけきっている時は、急に戦術も雑になる。
さむいしねむいよ、と、デッキを片付けもせずに、机の上に再び沈んだ。
「そうだそれから、鍵を増やせ。俺が預かれば、少なくともお前よりは失くさない」
櫂の言葉に、レンはむくりと起き上がる。
しばしの沈黙の後、花開くように笑った。
「合い鍵って、なんだかすごく悪いことみたいだね。不倫ぽいよね」
悪いことだと言う割には、紅い目が好奇に輝いている。
さむい、と、ねむい、に、悪の魅力は打ち勝ったらしい。
「櫂は僕の通い妻なんだ」
「何処でそんな言葉を覚えるんだ」
「イメージしよう。僕の買ってあげたマンションに櫂は独りで暮らして、ご飯を作って仕事帰りの僕を待つんだ、」
あれでもそれだと、通うのは僕の方だね、難しいなぁ。よしじゃぁ僕が櫂のヒモなんだ、櫂が買ってくれたマンションで櫂の帰りをひたすら待つんだけど、櫂は正妻のテツの所に帰ってしまって僕の所にはなかなか来てくれない……。
「そのイメージは誰得だ」
ウッカリ女装のテツとレンをイメージしてしまい、櫂が今度は机に沈んだ。
テツはともかく、レンは違和感がなさ過ぎてむしろ怖い。
後日、レンはあからさまに浮かれた態度で、櫂に銀色の鍵を手渡した。
「不倫仕様にしてみた」
表にハートが、裏に相合傘が落書きされたそれは、真っ赤なリボンも結ばれて、どこからどう見ても「女の家の鍵」である。
櫂はげんなりした。
それから一月もしないうちに、櫂、家に入れないんだけど、と電話があったが、それが本当に鍵を紛失したせいなのか、不倫ごっことやらを楽しむ為なのか、櫂には判断が出来なかった。
終
2011.12.18
1096字