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□seson
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レン櫂冬休み連作

2011→Count Down→2012

……4、


俺はバイトをすることにした。

簡単な調理と家事全般、という仕事を、学校からの紹介で受ける。
自分に向いた内容で、しかも破格の時給、拘束時間は短く、随分と条件が良い。
どういうことなのか尋ねると、教員は軽く、金持ちの道楽だ、と返す。
そういうものなのだろうか。

紹介状を持って辿り着いた先は、随分と立派なオフィスビルだった。
履歴書を見せると簡単に採用が決まって、あとは仕事内容の説明になる。

明日の朝には直接現場に入って貰うから。

そう言われて開放されるまで、一時間もかかっていない。
給料の振込先を書いて、印鑑を押しただけだ。
こんなに簡単なものなのか?

俺の疑問は、翌日すぐに氷解した。

指定の仕事先は、巨大なタワーマンションのロビーだ。
住人の許可がないと入れないので、エントランスでインターフォンを押して待つ。

あかるい冬晴れの日だ、朝の太陽が眩しかった。

「おはよう櫂。きみと冬休みを過ごせるなんて、僕はしあわせだよ」

現れたのは、深紅の髪を一つにまとめて、部屋着にしては派手だが、普段よりは幾分大人しい格好の。

「レン、」

俺は短く呼び掛けた。
いや、目の前の事実を、単に言葉にしただけだ。
どういうことだ、と、訊くまでもない。

「雇い主はお前か、……帰るぞ」

「駄目だよ櫂。正式なお仕事なんだから、勝手なことをすると会社にも学校にも迷惑がかかる」

勿論そうだ。
その通りだ。

けれど、嬉しそうというよりは、してやったりと見えるこの男の笑みが、俺を苛立たせていた。
何か、負けた気がする。

俺は、レンに買われたのか。

「何をすればいい」

「やだな、そんな怖い顔しないで。お仕事内容は説明を受けたよね?僕のマンションの大掃除と、ご飯作り、それに洗濯と買い出し」

要はメイドさんのすることさ、と、レンは実に愉快そうだ。

「……けれどね、家事のバイトにしては破格の時給だって思わなかった?」

燦々と陽光の射す小奇麗なロビーに不似合いな、みだらな笑みを浮かべた。

「契約違反だろう」

「大人の事情って知ってる?暗黙の了解なんだよ、」

「俺とどうこうしたければ、普通に声をかけたらいい」

どうせ、振り回されるのには慣れている。

「やだな櫂。それじゃぁ面白くないよ。僕はメイドの櫂に、やめて下さい、ご主人様、あーれーっ!てやって欲しいんだ」

「あほか……、レン、そもそもこのマンションはなんだ。引っ越したのか」

俺は溜息を吐いた。
昔からレンは不思議な奴だったが、成長するにつれて、その異質さは、残念な方向に進んでいるような気がしてならない。

「櫂とアイチくんが住んでいる街に、僕も暮らしてみたくなったんだ」

レンは、言葉も鼻歌交じりで、実にうきうきしている。


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