R_etc
□レンキリSS
5ページ/6ページ
53話から最終回後を捏造するレンキリ
#1
白皙の頬に、紅い髪がばらりと落ちて綺麗だ。
翳りを帯びた目元に、人の命を奪う刃のようにひかる眸。
レンは、相変わらずキリヤにとって完璧な美貌で、眼前に嗤っていた。
ただし、二人を隔てる冷たい壁がある。
キリヤは自室のPCで、決勝戦の中継を見ていた。
19型の見慣れたディスプレイの中で、レンは遠く戦いの中に居る。
FFを追放になって、それでもファイトを続けるのかと、何度も自問した。
元FFの看板を背負っていたら、カードファイトを巡るほとんどの場で拒絶される。裏ファイトの場では、以前追放された何とかというファイターが縄張りを張っていて、キリヤが入り込む余地はなかった。
同じ境遇のチームメイト達とは、腕を鈍らせない為にも時折集まっている。
けれど。
そのことに、意味はあるのだろうか?
そもそも、僕達の日々に、意味はあったのだろうか?
家族には、勉学に専念する為にファイトはやめたと言ってある。
それでリビングの大きなテレビでなく、こんな小さな机上の画面で決勝戦を見ている。
なぜ見るのだろう、見なくてもいいだろう。
その疑問は、レンの姿を目撃して、一目で氷解した。
だってこのひとは、こんなにもうつくしいじゃないか。
キリヤは硬質の輝石のような紫の眸を潤ませる勢いで、平坦な液晶を注視した。
手を伸ばせば、届くところに居た、貴方。
今、指を差し出せば、かつりとつめたい手触りに阻まれる。
あの時ならば、
抱き寄せることも、出来たかもしれないのに。
涙が出てきた。
自分が情けなかった。
どうしたらいいのかわからない。
どうすればよかったか、わからない。
レンのファイトは怖い。
強くて、おぞましい。
流れを追いながら、キリヤはそれでも見惚れていた。
(戦うレン様は、芸術のようだ)
……いや。
試合の流れが、中途からおかしかった。
レンの表情に、試合運びに、瑕疵のような綻びが見える。
対戦相手は先導アイチ。
キリヤはその名すら聞きたくないので、なるべく見ないようにしていたのだが。
高く安定した声音が、耳につく。
レンさん、僕は。
僕は、貴方を、救う。
何度も何度も、少年はレンに語りかけていた。
……何を言っているのだ。
キリヤにはわからない。
けれどレンは、端正な美貌に濃い陰を刻みこんで。
次第に、焦燥を見せるようになった。
声に余裕がない。
それに、対戦相手と正面から会話している。
見下すこともなく。
(美しい)
こんなレンは見たことがない。
キリヤは狭い画面に釘付けになった。
ファイトは切迫している。
レンは、普段こんなぎりぎりの戦いをしない。
ファイナルターンです!
高らかな宣言が、覆される。
(そんな)
レン様は、そんな。
キリヤの表情からも、余裕が消えた。
同じアイチを相手に、そう、自分も同じことをされた。
レンは強くなくては。
レンは美しくなくては。
レンはいつも不敵に嗤っていなくては。
レンは、……。
ああ。
自分はこの人の、一体何を見ていたのだろう。
試合はレンの負けだった。
キリヤは、気がつくと頬にひとすじ、涙を零していた。
強い貴方が好きでした。
余裕を失って追いつめられる、そんなレンの姿など、見たくなかった。
もっと早く、カードファイトに見切りをつけておいたらよかった。
レンの戦う決勝のことなど、忘れてしまっていたらよかった。
でも。
なのに。
(僕はどうしてレン様を、きらいになれないのだろう)
既に試合を離れてCMを垂れ流すディスプレイをぼんやりと見つめる。
頬を濡らす涙が、くるくると切り替わる多色の光を弾く。
キリヤは手を伸ばした。
指先は、つめたい液晶に跳ね返される。
この手で今、貴方を支えられたらよかった。