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□恋愛ピンク
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天井まである窓の向こうで、橙色の東京タワーがその灯を落とした。
零時、ちょうど。

都会の薄闇の夜に、どこかで花火が上がった。
丸く弾け。
あおく弾け。
今度は、ピンクのハート型に。

きらきらと街が輝き、きらきらと光が降る。

アイチは、ぼんやりとその光景に見惚れていた。

(……綺麗、)

生まれてから今まで、家族と家で過ごす年の暮れが、当たり前だった。

年越し蕎麦。
みかん。
炬燵。
テレビ。

肩が冷えないように、半纏を羽織ったりして。
今日だけは、と、真夜中に近い時間に、皆で戴きものの菓子をつまんだり。

それが、自分には普通で。
みんな、同じように過ごしていると思っていた。

「大晦日は一緒に過ごそうね、」

けれど今年は、当たり前のようにレンが言って。
ぴかぴかしたかっこいい車で、玄関前まで迎えが来た。
アイチくんを着せ替え!と、妙にるんるんしたレンに、服屋を連れ回されて、散々試着して散々与えられた。

僕は女の子じゃないです、と言ってみても、半分くらいは女の子の格好だった気がする。
夕方にマンションに着くと、

「櫂みたいに作ってあげられなくって、ごめんね」

レンは少ししょんぼりした顔を見せたかと思ったら、シェフがやってきて、調理をして、帰って行った。

こんな大晦日は、アイチは初めてだ。

真夜中の、程近く。
駄目だと断ったのに、ピンク色の綺麗なカクテルを、少しだけ。
あまいあまい果実の香りは、苺だろうか。
くらん、と眩む感覚が、すこしだけ、大人になれたみたいだ。

どうしてか、巨大な窓の傍にレンは丸い炬燵を置いている。
繊細なグラスを傾けて、なのに二人は並んで、半ばその中に埋もれていた。

「おこたでカクテルって、なんだか不思議な気分です」

アイチは、火照った頬を隠すみたいに俯いて。
レンが髪を撫でて、それから額にそっとキスをした。

そんな、カウントダウン。

夜空にしばし見惚れていたアイチは、花火の打ち上げが終わると、視線を転じた。

「あけましておめでとうございます」

傍らの、レンに向かって、上気したピンクの頬のままで、笑う。

「……って、ぇえ?!レンさん?!」

パーティから帰ったみたいな華美な服装のまま、レンは炬燵に埋もれて丸くなっていた。

……だってさっきまで。
つい、先程まで、お話していたじゃないですか。

新年を迎えた瞬間、アイチは花火に気を取られて、窓の外を向いた。
その一瞬で、レンはこんなにも簡単に眠りに落ちて……。

「……レンさん、レンさん。起きないと駄目です、おこたで寝たら風邪をひきます、レンさん!」

墨色の床に、紅の髪がうつくしい弧を描いて広がる。
漆黒のスーツに、白い膚が映えて、レンはとても綺麗だった。

アイチは目を閉じた横顔に、長い睫毛の作る目元の翳りに、見惚れて動作を忘れてしまう。
とくん、とアルコールに速められた鼓動が、ひときわ大きく鳴った気がした。

レンも同じカクテルを飲んでいて、そのせいか、白皙の頬に仄かな朱が走る。
薄い唇が僅かに開いて、整った歯列が覗く。

(レンさん、すごい、きれい……)

とくん、とくん、と。
煩いくらいに胸が鳴る。
触れられた時とは少し違う、あつい、の……。

ぞく、と。
身体の芯に。
変な、感じ。

(だって、いつもは僕が苛められてばかりで)

手を伸ばして、さらら、と髪に触れる。
しょっちゅう撫でられてはいるけれど、レンの髪にこうして触れるなんて、初めてかもしれない。
頬にかかる髪を、指先でそっとよけると、普段より血の色の濃い唇が際立った。

(レンさんも、僕をこんな気持ちで見ているのかな)

屈み込んだら、息が熱いの、わかっちゃうかな。
髪の先が触れないように、手で押さえて。
吐息が触れないよう、息を止めて。

昂揚する身体の、奥の奥から湧きあがるなにかに後押しされるように。
アイチは、レンのくちびるに、自らのそれを。

そっと。
かさねた。
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