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□其は響きあう波紋のように
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レンキリ、レンアイ、キリアイ。
倒れたアイチがレン様に召喚されるSS(45話と46話の間捏造)
R18
3Pありです、ひどいレンくん。
閲覧御注意!
倒れた時は、いつもあのひとに逢いたくなる。
ひびきあうちからで、全部わかって欲しい。全部許して欲しい。
不安も。
エゴも。
焦燥も。
癇癪も。
我儘も。
孤独も。
欲望も。
眩む視野の向こうに居るあのひとなら、受け止めてくれる気がした。
「レンさんが、僕を呼んでる……?」
蛍光灯の白い光が、瞼を透かして眩しかった。その明るさが疎ましくて、手をかざす。
そうしてアイチはようやく目を開けた。知らない景色で、状況もよくわからない。
ただ、陰りの中は安らぐ。
もっと暗い方がいいのに。
いっそ暗黒でいいのに。
試合後に倒れたんだった、きっと医務室あたりに運ばれて、などという判断は、どうしてか瞬間に霧消していた。
ただ、ここはあかるくて、あかるすぎて、くらくらする。光が熱のようだ、暑くて、厭わしい。
アイチはゆっくりとベッドの上に身を起こした。床に降り立つ時に、平衡感覚を失って、くらりとよろめき膝をつく。
ああ、ここではひとりきりだ。
支えて欲しいのに。
今、僕は誰か、誰かに傍に居てもらえないと。
(櫂くん、)
ふ、と、意識が現実に返る。
(あれ……僕、……そうだ、試合……!)
立ち上がる時に扉が見えた。ガラスの表面がぎらりと反射して、眩しい。くらんで、目を閉じて、再び膝をついた。瞼の裏に残像が踊る。ちかちか。瞬くパルス。合図のように、暗号のように。
アイチの眸から、すぅ、と焦点が失われる。
こんなのは嫌だ。
あかるすぎるのと、ただしすぎるのは、似ている。
どちらも傷つくだけだ。
真夏は嫌い。
真昼も嫌い。
太陽も嫌い。
やさしくして、ねぇ。
そうして、歩き出した。よくわからないけれど多分。どうやって方向を決めたのかも知らない。
けれど、目的の場所だけは、
身体の中に、
(こころの中に?)
(頭の中に?)
(それとも、接続する何処かに?)
答が在る。
閃く着想で導き出した結論のように、絶対的な正しさで。
……ただしさなんて、傷つくだけなのに。
焦燥だろうか。
苛々して臓腑の収まり所が悪い気がする。
アイチは場所感覚も時間感覚も失ったまま、気がつけばレンと対峙していた。部屋の中は水底のように、しん、と静かで暗い。壁じゅうの巨大なガラスの向こうに、試合会場が一望できる。特殊な加工でもしてあるのだろうか、そちらの照明はほとんど射して来ない。不安定な表情をようやく落ち着かせて、茫洋と揺れる瞳で、アイチは恋をするみたいにレンを見上げる。
「レン、さま、」
僕を呼んでくれたんですか。
僕を欲しがってくれるんですか。
僕を貴方のものにして。
僕を離さないで。
僕を置いていかないで。
僕を抱きしめて。
僕を奪って。
僕を。
あいしてくれますか。
唇の端が、わずかに笑みを形作る。
脳のなかに渦巻く思いは切実で、けれど、誰に請うているのか、本当のところは自分でもわからなかった。
ただ目の前に、おいで、と言ってくれるひとが居るから。
昂揚する感情を、ほの紅い頬に、潤んだ眸に宿したまま、期待に満ちた視線を向ける。
「何をしに来たの、」
レンは独白するみたいに短く言った。深々と豪奢なつくりの椅子に腰かけたまま、部屋の入り口に立ちつくすアイチの姿を、視野に入れる素振りもない。伏せた紅い眸が示す先には、這い蹲る影がひとり。その顎に、黒革のブーツに包まれたままの爪先をかける。つい、と僅かな力をかけて上向かせたら、それは鋭利なつくりの貌に、みるみる朱を差した。
「レン様……!」
見知らぬ男が高ぶった口調で呼ぶ同じ名が、アイチにはどうしてかひどく不愉快だ。縋るような目でレンを見たのは一瞬のことで、すぐに不安定なほどの唐突さで表情が切り替わる。
嫌悪。
侮蔑。
拒絶。
どれだろう。
どれでもいい。
燃え立つ炎のようなオレンジの髪が、暑苦しくて鬱陶しいだけなのかもしれない。
「きみの次の対戦相手だよ、キリヤ。先導アイチくん」