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□ゼロニーイチヨン
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*マイナス15
僕の恋人は、誰もが焦がれる最強チームのトップ。
雀ヶ森レンさんは、皆の憧れの「レン様」。
バレンタインなんて。
チョコレートなんて。
慣れっこで。
うんざりするくらい。
……知ってる。
覚悟してる。
でも。
雪崩れる程のチョコの中から。
僕だけを、見つけて。
僕だけを、……見て?
「2月14日?……仕事だよ」
いつ、逢えますか?
って、僕の方からいつも訊く。
その日、予定がありますか?
さりげなく問うたとして、意味に気がつくひとじゃない。
「どうして?また、週末にね」
頭を撫でられると嬉しくて、擦り寄ってしまう。
そうすると、触れるだけのキスをくれる。
でもそんなのは、みんなにしているのかもしれない。
僕なんて、小さな動物を飼っているくらいに思われているのかもしれない。
バレンタインなんて俗なイベントにかこつけて、チョコレートを渡して、すきです、と告げれば。
レンさんは、僕をちゃんと見てくれるだろうか。
それとも。
そんな子が大勢居すぎて、僕の告白なんて埋もれてしまうのだろうか。
*マイナス3
「ごめんなさい、僕、今日は塾で大事なテストがあるから」
「ごめんなさい、どうしても家で用事があって」
「今日は学校で居残りになっちゃったんです」
抱き寄せる貴方の手を、寸前で擦り抜ける。
触れようとする指先を、するりとかわす。
膚を重ねない逢瀬を、それでも最初は楽しんでくれたレンさんだったけれど、幾日も経てば次第にその目も尖ってゆく。
僕は白皙の相貌に時折よぎる苛立ちを、ひどく冷静に観察していた。
ね。
放置ぷれい、というやつですよ。
レンさん、バレンタインの日には、とびきりの僕をあげる。
だから、もうしばらく、待って下さいね。
……レンさんはいい子だから、待てますよね?
僕は余裕のない自分から目を逸らすみたいに、貴方のことだけを見ていた。
レンさんが不機嫌な顔をすると、ほんとうは、すごくきゅってなる。
……怖いよ。
嫌われてしまわないか。
僕になんて、あっという間に飽きてしまわないか。
でも、顔色を覗って、貴方がいいように、貴方が望むように、と、そればかりを気にかけていたら、もっと気を遣える人には敵わないし。僕はそもそも、同じチームFFに居るわけではないから、その時点で大方の恋敵に対して不利なんだ。
だから、駆け引きをしましょう。
「明日までの課題が、ちょっと半端ない量だったって、思い出したんで。……今日は早めに帰りますね」
放課後に逢って、ファイトして、一緒にご飯を食べて。
それから僕は、突然言った。
今夜は泊っていくね、って、確認されたところだった。
車で送って貰うより、この時間帯だったら電車の方が早いので。
制服姿なんて僕ひとりだけ、そんな大人ばかりの高級レストランの前で、僕は踵を返す。
「アイチくん、」
呼び止めて、振り向いたところでキスをする。
レンさんのすることはわかっていたから、僕はさりげなく身をかわした。
「……駄目です、みんな見てますよ」
陽が落ちたとはいえ、まだ浅い夜の入り口。
街は煌々と明るく、人出も真昼より多いくらいだ。
それが、口実になる。
……気にする人じゃないのは、知っているけれど。
「構わないよ」
「……気分じゃ、ないです」
するり、と、伸ばされた腕から擦り抜けた。
ふふ。
貴方を真似て、唇の端で、嗤う。
「おやすみなさいレンさん、……今日はごちそうさまでした。また、誘って下さいね。……すき、です」
最後だけ、小さな小さな囁きで。
背伸びして、爪先立って、ようやく届く耳元へ。
ねぇ。
追いかけて。
僕の背中に、貴方の短い溜息が聞こえた。
僕だってずっと触れたいのを我慢していて、だから無理矢理抱き寄せられたら、きっと抵抗出来なかった。
ちゅくん、と、身体の中心が疼く。
……ぁ。
すごく、……僕、……欲しくなってる。
レンさん。
今すぐ、挿れて欲しい。
欲情に押し流されるように、僕は駆け出した。
もう少し。
もう少し。
我慢して。
いっぱい我慢して、一番美味しくなった僕を……受け取って、下さいね。