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□くらやみひめ
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#1
目が覚めたら、僕はレンさんに抱えられてた。
腕枕をして貰っているというより、僕の身体がレンさんにとっての抱き枕状態だ。
……重いんだよ。
上体を横切る腕を、両手で抱えて、どうにかどける。
その場に起き上がると、頭の奥が痛んだ。
視界がすぐに眩んで、ぐらぐらする。
ふぅ、と。
溜息から、深呼吸をひとつ。
どうにか顔を上げる。
見渡して気がついたけれど、僕はきちんと寝台の中に居た。
床から天井まで続く窓から、真っ赤な夕日が見える。
落日の色に染められて、絹のシーツが地獄の海みたいだ。
寝室まで、そういえばどうにか移動したのだっけ。
この男が重いわ、寝惚けてぐずぐずするわで、非常に大変だった。
余計な記憶だ。
……まぁ、それは、僕ではない方の僕の記憶だけれど。
馬鹿じゃないか。
あんな、慣れないものを呑ませるからだ。
ほんとうに忌々しい男だね。
しかも僕より先に潰れてぐーすか寝るとか、どういうことだ。
僕は視線を落とした。
一つに纏めた髪が乱雑に解けて、白い膚に絡む。
はだけた襟元から覗く、首筋から肩にかけての線がやけに色っぽい。
滑らかな膚には、一箇所だけ、控えめな所有印が刻まれて。
……わけもなく苛々した。
ぼやぁっと寝ているだけの顔が、こんなに綺麗なのは、ずるいんじゃないか。
襲ってやろうか、と思ったけれど。
……もっと、楽しいことをしましょうか。
僕は、独り。
くすくす、と笑う。
「レンさん。……レンさん、」
呼び掛けたところで、起きれば苦労はない。
身体を揺すって、頬をはたいて、髪を引いて。
僕は散々に手を尽くす。
ほんとうに、こちらの意のままにならないひとだ。
腹が立ってきた。
繋がる時みたいに跨って、ぎゅう、と体重をかける。
どかどかと胸のあたりを叩いていたら、腰に腕を回されて。
「……わ、」
横向きに力がかかって、僕は容易くベッドの上に沈んだ。
「うるさい」
短く、それだけ。
僕は再び、さっきと同じように、レンさんの腕の中に抱え込まれる。
ぎゅ、ってされると。
なんだか。
……近い、し。
僕だって寝乱れて、あちこち膚があらわだったから。
素肌が、かさなって。
触れて。
眠っていた所為か、お酒の所為か、少しだけいつもより高い体温に包まれたら。
こんなの、いつものことなのに。
とく、とく、って。
鼓動が速くなる。
格好悪いな。
こんな、……すごく好き、みたいで。
「レンさん!」
少し大きな声で呼びかけて、むずむずと暴れれば。
相当に不機嫌な表情で、レンさんが薄く目を開ける。
血溜まりみたいな眸が、不穏なひかりを帯びて。
ぞく、ってした。
敵を見る目だ。
すごい、……怖い。
でもね。
僕はそうやって、貴方が目を開けてくれるのを待っていたんですよ。
視線を、絡める。
脳に負荷をかける。
きぃぃぃぃ、って。
頭の中に、まぼろしの音が鳴る。
ひびきあう。
異能。
貴方の意識を、まるごと絡め取る。
ねぇ、ふたりきりの国へ行きましょう。
僕だけの貴方。
レンさん。