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□特別でもない僕たちの。
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執務室に、夜の帳が降りて。
書類を散乱させたデスクの上にも、翳りが差す。
天井までの窓の外、星がひとつ輝いて、それだけが二人を照らす光源だった。

「あ、……ぁっ、……櫂、く……櫂くん、櫂くんっ……ぁんっ!」

膚を打ちつけ合う音と、粘膜が擦れる水音の重なり合う中で。
高く、時折掠れる声が、名を呼び続ける。
アイチの表情からは、既に固い意思は消えて、茫洋と焦点の合わぬ眸に涙を潤ませ、ただ、繰り返した。
互いに顔の見える、向き合うかたちでの咬合であるにも拘らず、アイチは視線を斜めに逃して、ずっと瞼を伏せている。
意味をなさぬ嬌声に交えて、また、短くその名を口にした。

眦から、ひとすじ。
朱の差した頬へと、涙が伝う。

「きみは、残酷な子だね……僕に抱かれながら、いつまでも櫂の名ばかり」

華奢な身体を壊す程に激しく掻き抱くレンは、熱く掠れる吐息のうちに諦念と寂寞とを滲ませて、それでも性感を煽りたてるように、アイチの耳元へと唇を寄せて、ひくく囁く。
返事も、反応のひとつさえ待たずに、繋がったままの腰を突き上げれば、先端は内壁の過敏な箇所を抉って。

「……ひぁぁぁっ!そこ、だめ……っ!だめぇ……櫂く、かいく……ん!」

ひときわ大きく、嬌声が響いた。
繰り返し、また、同じ名を告げて。

「アイチ……、と呼んであげたらいいのかな。……かれのように」

レンは視線を交わさぬままに、腕の中で震える肢体を、いっそうきつく抱き締めた。







「……ちょ!なんですかそれ。何読んでるんですか、レンさん!」

ふたりきりで居る時は、アイチの定位置はレンの膝の上。

重たくないかな、暑くないかな。
僕、変な臭いとかしないかな。
汗をかいてないかな。

色々。
いろいろ。

気にしながら。
遠慮しながら。

それでも今日も、引き寄せられるままに寄り添った。
背を抱かれる形で、密着する。

珍しく、レンは重厚なデスクに設置されたPCに向かっていた。
仕事なのかな、と、すこしだけ遠慮して、レンの視野の隅っこに位置すべく身体を小さくしたりして。
けれど活字の流れる画面が、やはり気になって視線を向けてみれば。

赤裸々な、みだらな、あけすけな。
絡み合い、睦み合うふたりが、そこには描写されていた。

(……えっちなやつ、)

どきり、と鼓動が速くなる。
目を逸らした方がいい、という意思と裏腹に、目は逸らせなくなってしまう。

よくよく読んだら、そこに登場する名は。
よく知った……というか。

(僕と貴方の、)

気付いて、アイチは、瞬間的に真っ赤になった。

「ん?小説だよ。櫂アイ前提のレンアイ、だって」

何でもないことのように、レンは平静な声音で応える。

「……へ?……ふぁっ、でも!これすごくやらしい……なんか、……あのっ、だめです……駄目です!僕がこんなの……読んだら駄目ですっ」

細い腰をレンの腕で固定されながら、文字列を浮かび上がらせるPCに、アイチはわたわたと落ち着かない仕草で手を伸ばす。
てのひらでレンの視界を遮るつもりなのだろうが、上手くはいっていなかった。
レンは平然と画面をスクロールさせて、激化する濡れ場を目で追い続けている。

「そう?そんなには、やらしくないよ。普段のきみの方がよっぽどやらしいでしょう、こんなもんじゃないです。……ふふ、そんなアイチくんは僕しか知らないけれどね」

笑みのうちに、レンはその手をぬかりなくアイチの胸元へと伸ばして、上着のボタンを開けていった。

ひとつ、ふたつ。
みっつ。
……全部。

アイチがその手を遮ろうとしても、阻む指先を容易く擦り抜けてしまう。

「レンさん……!僕っ……僕は、そんな、……全然っ、……やらしいとか、そんなの……違います……、」

「違わないよ。僕の前で可愛い声を上げるアイチくんのやらしいの……全部、知っているからね」

必死の表情のアイチに対して、レンは宥めるように頭を撫でて。
そうしながらも反対の手では、インナーの裾をたくし上げている。

「そういうの、そのっ……普通にしてる時に言うの、……やです……!」

アイチが更に言い募れば、髪の上から愛撫は頬に落ち、唇をなぞった。
素肌を暴いた指先は、脇腹から胸へと這い上がって、つん、と立ち上がった乳首を摘む。

「……ッひゃんんっ!」

びくん、と背を反らしても、その刺激は止まない。
親指と人差し指の間に挟み込まれて、くりくりと転がされたら。
アイチの腰が、それだけで揺れ始める。

「じゃぁ、普通じゃないようにするかい?やらしいアイチくんに似合いのシチュエーションに、なろうか」

「レンさ、……っ、」

力の抜けかかった身体で、それでも囚われた膝の上から抜け出そうともがく。
しかし果たせずに、アイチは容易く身体の向きを変えられてしまった。
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