R_A

□Call your name
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僕達は、いつだって一緒に居る。
最近は特に、片時も離れないといった風情で。
学校が終わると、僕はレンさんのお家に入り浸って。

宿題をするのも、受験勉強をするのも、レンさんと一緒に。
ファイトをするのも、デッキを組むのも、レンさんと一緒に。

二人で過ごす時間は、とても甘い……けれど。
今日のレンさんは、少しだけご機嫌斜めなのかもしれなかった。

「どうして、アイチくんは離れて座るの、」

「……え。だって、向き合って座らないと、ファイト出来ないですよ」

「それは、……そうだけど。普段から、きみは距離を取りたがるよね?」

レンさんが、酷く不満そうに言う。

「そんなこと、ないです」

僕はとぼけたけれど、本当は、彼の指摘が正しいことを知っている。
レンさんは、すぐに僕を近くに引き寄せるんだ。

肩を抱いて。
腰を抱いて。
お膝の上に抱え上げて。
キスをして。
そのまま、……組み伏せたり、して。

すごくすごく、近くに置いておきたがる。

僕だって、レンさんの体温に抱かれているのは、とても気持ちいい。

けれど。

……緊張、するんだ。

心臓がばくばくして、手のひらに汗もかくし、顔が熱くなるし。
それを気取られてしまうのは、なんだか気恥ずかしいし。
あんまり強張ってしまって、仕草がぎこちなくならないかとか。
いっぱいいっぱいになってしまって、変なことを言ってしまったりしないか、とても気になるし。

それで。

誘われても、なるべく口実を作って、離れて座ることにしている。
レンさんがくっつきたがっているのも……不慣れな僕には少し、その……こういうことが常態で、いつも誰かにくっついていたんだと思うと、少し……こんなことを思ってしまっていい立場じゃないって、わかっているけれど……嫉妬とか、感じてしまったり、して。

僕達は山ほどの箱を開けて、袋を開いて、テーブルの上どころか床にまでも、カードを撒き散らしていた。
フローリングの床はグレイがかったくすんだ茶色で、家具は白が多いレンさんの部屋は、視野に入る色数がとても少ないのに、こんな時だけカラフルになる。

外は、雨が降っていて。
ここは窓が大きいから、空の様子がとてもよくわかる。
床から天井まで、一面の窓。
角部屋だから、それはゆるいカーヴを描きながら直角に折れると、南から東にかけて続いていた。

雨脚が強いから、景色は滝のように流れる雨滴の向こうに消えてしまって、僕達は水の檻に閉じ込められたみたいだ。
雨音は聴こえる。
けれど耳が次第に慣れて来てしまっていて、リズミカルな雨滴の音は、意識しなければ静寂と変わらなかった。

ふたりきりで。
互いに、ひたすらカードを見ていて。

時間が止まってしまったようで、……僕は、こんな時間は嫌いじゃないのだけれど、レンさんは、そうじゃないのかな……。

俯く表情は、深紅の髪が頬まで落ちかかっている所為で、覗うことが出来なかった。

テーブルの反対側、ソファの隣に座って。
手を……握ったりして。
仔猫のように身を擦り寄せて、すき、って囁いたら。

そういうの、とても喜ぶんだろうな。
……けれど。
僕、には。

ちょっと……。

考えただけで、緊張してしまった。
僕が、僕から、レンさんの手を取るだなんて。
自分から、手を繋ぐだなんて。

そういうのは、いつも、レンさんからしてくれる、し。
まかせっきりで。

上手にできる気が、ぜんぜんしなかった。

それに、どういうふうにしたら自然に振る舞えるのかも、わからない。

自然に、手を繋ぐ?
自然に、寄り添う?
自然に、……キスを、したり……。

……あ。
……あわわわわ……。

駄目だ。
そんなこと考えたら、勝手にほっぺたが熱くなる。

恥ずかしいな。

デッキを、……そう、ちゃんと考えなくちゃ。
こんな時に、大事な事を忘れてはしたない想像をしてるなんて知られたら、きっとレンさんに嫌われてしまう。

僕は手元のカードに、意識を集中しようとした。

そこに。

……音もなく、明滅するひかり。

「……え、」

思わず声に出した。

確かに、陽が長くなってきたとはいえ、そろそろ照明が必要な時間帯で。
最初は、レンさんが灯りをつけたのかと思った。

けれど。
その、言葉尻に重なるように。

耳を。
つんざく。
……轟音。

これは。

雷……!!

「……や、っ!」
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