R_A

□Call your name
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大きな音も、空が一面にひかるのも。
僕は、……あまり、得意ではなくて。
自宅や学校に居る時でさえ、それを表に出さないように頑張っても、頑張りきれなくて、からかわれたりするのに。

此処は天の高み、神様に挑むみたいな、高層の塔の頂。

まるで。
雲の中に、放り出されてしまったみたいに。
空は。
一面、僕達を取り巻いて。

びかびかと、ひかる。

「ひ、……っ!」

手持ちのカードを、卓上に慌てて伏せて。
僕は音から、光から、せめて少しでも遠ざかるように、身を竦めた。
両手で耳を覆って、目をぎゅって閉じて。
ソファとテーブルの間に、丸くなる。

お腹の底に、ずしんと響くような音がした。
気のせいか、床さえも揺れたような、そんな衝撃で。

……やっ!

やだ……こわい……よぉっ!

「レンさ……!」

ひとりじゃ、なんだか……ぜんぜん、駄目で。
僕は転がるようにして、テーブルの向こう側へと回ると、レンさんの隣に座って、身を寄せた。

「アイチくんは、雷が怖いの、」

くす、って、揶揄するみたいに、レンさんが笑う。

子供だと思われたかな、軽蔑されないかな。
そういうの、普段ならすごく気になるんだけど。

今は、ぜんぜん、そんなことはなくて。
僕は怖くて震えているのに、平気でいるレンさんのことが、すごく頼りになるし、安心できる。

「……ひゃんっ!」

答える代わりに、また、光ったと思ったらすぐに、すごい音がしたから。
僕は小さく声を上げて、レンさんの腕にしがみついた。

そうしたら、レンさんは指を絡めて、手を握って。
そのまま引き寄せて、お膝の上へと僕を乗せてくれた。
向き合うかたちで抱き合えば、背中を撫でてくれる手が優しくて、少しだけ震えがおさまる。

雷鳴の度に、びくん、ってなるのは止められないけれど。
そうしたらレンさんは、髪を撫でてくれて、そのまま僕の頭を、寄りかかる形で抱いてくれて。
僕は小さな子供が甘えるみたいに、レンさんの胸に顔を埋めた。

「僕が傍に居るからね」

「レン、さぁ、ん……!」

「……アイチ、」

「ふぇ、……っ?!」

耳元に囁かれる呼びかけは、いつだって甘い。
レンさんは、僕の名前を呼ぶ時、すごく優しい声になる。

愛されて。
慈しまれて。
大切にされて。

そういうの、……全部、感じるから。
蕩けそうになる。

……あれ、……っ?

でも。
なんだか、……いつもと違って。

「……え、あのっ、」

「アイチ。ね、……呼び捨てにしたら、恋人同士みたいでしょう?」

「え。えええええ、と……あのっ、」

すごく、すごく、びっくりした。
アイチくん、ってずっと、出逢った時からそう呼ばれていたから、それですっかり慣れてしまっていて。

こ、恋人同士、みたい、とかって……。

どうしよう。
どう反応したらいいんだろう。

緊張して、上手に喋れない。

勢いよく顔を上げたら、そこに、また雷鳴が轟いて。
僕は身を竦めて、また、レンさんの胸に抱かれる姿勢に戻った。

怖い、……し。
気恥ずかしいし。

なんだか、もう、わけがわからない。

「きみから触れて来てくれて、ね。……すごく、嬉しかったよ」

「……え、」

「雷に感謝しないとね。……恥ずかしがりのきみが、僕をこうして頼ってくれて」

「……ひゃ、……ひゃぁっ!……そ、ですよね……僕、こんな……っ!お膝の上とか……ごめんなさい……っ、」

慌てて降りようとしても、レンさんは僕の背をがっちりと抱いてしまって、離してくれようとはしなかった。
でも、……でも、こんなにくっついているのとか。
意識してしまったら、本当に緊張してしまって。

なんだか、……上手に、息も出来ないほど。

なのに、稲光も雷鳴も、此処に居るとまさに只中に叩きこまれたみたいで、……怖い。
だから恥ずかしいはずなのに、レンさんにくっついてしまうのを、止められそうになかった。

レンさんが、優しく僕の髪を撫でる。

「ね、僕のことも呼んでみて。アイチ、」

「……え。……ぇぇっ?!」

囁く声が、少しだけ、意地悪をしている。
レンさんは、甘くて優しい苛めっ子、で。
僕の……ご主人様、だから。
こういうの……恥ずかしがっているってわかっていて、するんだ。

「……レン、さん。……だめ、ですか?」

だってだって、出逢った時から、そう、呼んでいて。
今更、その、そんな……呼び捨てにする、とか。
……無理な気がした。
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