Works

□R×K SS
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(pure)stain



32話のレン櫂レンシーン改造
※ちゅーあり


大会本部に呼び出しを受けた櫂が指定の場所に着くと、場違いなほど重厚な観音開きの扉を、体格のいい警備員が両側から開けて、恭しく礼をした。今まで居た予選会場と同じ建物とは思えぬ豪奢さを訝しみながら、靴音を消す毛足の長い絨毯に一歩踏み出すと、背後で音もなく扉が閉まる。

静寂のなかで、一つだけ置かれた椅子が、きぃ、と軋んだ。

照明は消えている。光源は、窓からの光のみ。立ち上がった人影が、逆光に陰る。血だまりのような鮮紅の髪と、燃え立つその色彩を際立たせる、漆黒の長衣と。確かに見知った姿で、間違いようもない。

「さがしていたよ」

水面に広がる、波紋のような声。記憶の中から聞こえた気がした。

華美な外見に反して涼やかな響きに、少しだけ混ざるのは、色か欲か毒か悪か。続けて、漣のように名を呼びかけてくる、聞き慣れたイントネーション。

「……櫂、」

二度と会わない。
会うつもりもない。
そのつもりだった。

……本当に?

カードファイトを続ければ、いつかどこかで再び巡り合う。かならず。
わかっていたはずだ。
ファイターならば知らぬ者もない、常勝の代名詞、不敗の王者。

「レン」

わかっていたはずなのに、どうして俺はここに居るのだろう。

櫂は絞り出すような声で、その名を呼んだ。

「予選落ちおめでとう」

くす、とレンが嗤う。

「馬鹿馬鹿しい。そんなことを言う為に呼び出したのか」

不満を隠そうともしない櫂の言葉を意にも介さず、レンは続ける。歩み寄る彼の姿は、決別した頃と変わらぬ端正な佇まいだったが、近づくほどに、薄暗い部屋の隅にわだかまる闇を、渦巻いて凝固したような眸の陰りが、強く強く櫂の心を突き刺した。

「あの子がすきなの、」

レンはいつも唐突だ。出会った頃から変わらない、と思ってから、櫂は眉をしかめた。以前のことなど、どうでもいいはずだ。

「何の話だ」

「先導アイチくん。きみの好みのタイプだよね?」

伸ばした手が、櫂の髪を掠める。仕草の一つ一つで昔のレンを思い出す、そんな自分に苛立つように、櫂は整えられた爪の先を弾いた。

「くだらん」

言い捨てて背を向け、扉に手をかけたが、びくりともしない。レンの指が重なって、その手を封じる。音もなく寄り添い櫂の背を抱いて、レンは囁くように耳元で告げた。

「だってあの子は、きみの愛した僕にとてもよく似ている」

瞬間、思考を奪われる。
櫂は息を呑んで、そして言葉を失った。

急速に過去の景色が蘇る。

かつてはすぐ隣にいた、レンの。
声。
指先。
唇。
孤独。
闇。

そして、
病理。

(僕はもっと強くなりたい)

言い切って、あかい眸は無邪気に輝いていた。レンは今みたいな嗤い方をする少年ではなかった。積極的で大らかな櫂と違って、万事に控えめだけれど意思の強いひたむきさでファイトに取り組んでいたように思う。

(もっとずっと強くなる、誰にも負けたくない)

表情が消えた。
抑揚が消えた。
なのに、怒り以外の感情を、どこかに棄てて来たみたいに見えた。
ぼろぼろだった。
けれどレンは強いから。
レンの強さを信じていたから。

……知らなかったんだ。
他になにもないなんて。

家族も友達も楽しいことも面倒なことも、なんでも持っていて普通だと、あの頃の櫂は無邪気に信じていた。

だから、
俺は、
……、


傍に居すぎると、どちらも駄目になると思ったんだ。


言い訳だろうか。

そんな態度が。
レンのこころを突き放す、と。
まさか考えたこともなかった。

(ただつよくなる。それだけでいい。他に何もいらない!)

純粋だった眸が、次第に色を変えてゆく。
濁り。
歪み。
沈み。
穢れ。
汚濁の澱の底に沈むように。

それはだめだ、レン。
そんな勝ち方をしちゃいけない。

叫んでも、もう、届かなかった。

「僕は失ったきみの代わりに、世界を手に入れたよ」

昔日に飛んでいた意識が、引き戻される。
憔悴を隠せぬ櫂に反して、レンはどこか楽しげだった。

「きみは失った僕の代わりに、先導アイチを手に入れたの。酷い男だね、櫂」

返すことばをなくしたまま、櫂は唇を噛みしめた。
どうせ、今も昔も、二人の間には沈黙が一番似合う。

「……だいすきだ」

レンは静寂を踏みにじるように言うと、強引に上向かせた櫂のくちびるに、喰い尽くすみたいな口づけを落とした。






やったぁぁぁぁぁ!おわったぁぁぁぁ!勝ったよ、レン櫂レンに勝ったよ!書けると思ってなかった。一生かかるんじゃないかと思った。こんなですが、初めてのヴァンガSSです。読んで下さってありがとうございました!

32話を見て、レンがあまりに櫂ラブでラブすぎて色々アレでした。自分から会いにいくのかよ!ラスボスの威厳が台無しじゃねぇか!とツッコミたくなったので、ちょっと呼びつけてみた。まぁ、好きな子にはふらふら会いにいっちゃうのが、フリーダムすぎてレンらしいっちゃらしいんだけど。

レンくん全日本チャンプなので世界は手に入れてないんですが、まぁ世界最強ってことにしといて下さい。

書きたかったのは、「だってあの子は、きみの愛した僕にとてもよく似ている」。レン→櫂、櫂→レン、どちらも同じくらい歪んでいるといい。

2064字
2011.12.06

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