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□ドロップスタァ嗜好症
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しらなかったんだ、櫂くん。
打ちひしがれたきみが、こんなにも綺麗だなんて。

強くて、美しくて。
瑕疵もなく、隙もなく。
眩しくて、眩んで、直視も出来ない程の輝き。
それが僕にとっての櫂くんだった。
ダイヤモンドなのだと思っていた。

だけどそれは。
その煌めきは。

とても綺麗で、儚い、フェイクだったんだ。
子供の玩具みたいな、にせもののきみ。
ダイヤモンドの形をしたガラス玉にだって、そういえば昔は宝石の価値があったんだよね。

傷ついて。
傷つけて。
それでもひかる。
それだから、ひかる。

今、まさに砕かれて壊れて粉々になった。
きらきらと破片が舞って落ちる。
雲母のような煌めき。
光を弾いて。

墜落する、星のようにね。

「レン、」

名を呼ぶ声が、こんなにも苦しそうなの。
僕は、どうしたら、いいの?

櫂くんの苦しみを、僕のそれに置き変えられたらいいのに。
せめてきみの感情に、同調できたらいいのに。

僕はけれど、もう、子供じゃないのかな。
きみの、きみたちの不和に、感情移入は出来ないな。

不器用な櫂くんが愛しい。
残酷なレンさんが愛しい。

相互不理解の原因にも気付かずに項垂れるきみは、姿は僕よりも大人だけれど、ただそれだけだ。

苦しんで、砕け散って、壊れ物として輝くきみを。
もっと踏み躙って、もっと粉々にしたい。
そうしたら、今よりもっときらきらして。
うつくしく、光を弾く。

白く。
透明に。
黄金に。
なないろに。

きらきら。

……ああ、櫂くん。
きみにそのひかりを与えるのが、この僕であるなら。
どんなにか、素敵だろうにね。

きみの孤独に寄り添えない僕だけれど、レンさんの気持ちなら、少しはわかるんだ。
そう。
美しいきみを、這い蹲らせたい。
気高いきみを、服従させたい。

欲望は卑しいだろうか。
でもね。

敗者のきみには、僕を見下す権利もないんだよね。

僕は愕然と跪く櫂くんの背に駆け寄った。
声をかければ、ひとりにしてくれ、と。
短い、拒絶。

……うん。
そう言うんじゃないかと思ったよ。

だから僕は、助けてあげないね。

くるりと踵を返す。
きみの背がこんなに頼りなく映ったのは、初めてのことだった。
長身で痩身の櫂くんは、一つしか年齢が違わない割に、随分と大人びて見えたものだけど。
今こうして見下ろせば、少年らしくて華奢なその体躯は、しなやかだけれど危うく見えた。

視線をそちらに注いだまま、対戦室を囲むキャットウォークの上に、僕は移動する。
ウルレアの人たちは、ファイトが終わればもう此処に関心を失ったみたいで、とっくに姿がなかった。
レンさんとAL4のテツさん、アサカさんは、櫂くんを放置して出て行ったきり……きっと、監視カメラか何かで見物しているのだろうけど。
素知らぬふりで、相当に趣味が悪いよね。
レンさんは、櫂くんに勝ったら自分自身で櫂くんを、っていう嗜好なのかって思っていたけれど。
僕の予想なんて陳腐だった。

お揃いの黒服に、黒い遮光グラス。
似たような背格好で、特徴のない髪型で。
どこか兵隊めいた、どこか人形めいたFFの平ファイター達が、気がつけば櫂くんを囲んでいた。

僕の位置からだと、何が起きているか、対戦室全部を見下ろすことが出来る。
伸ばされた手を振り払う、櫂くんの鋭い翠の眸も、識別出来る距離で。
……そうだね、特等席だな。
きっとレンさんが用意してくれたんだろう。
僕がここに居ても何も言わないのだから、見物は構わないということだよね。

本当に、趣味が悪いよ……レンさん。
僕が櫂くんのこと欲しがっているの、とっくの昔に知っているくせに。

手摺に凭れて、悠然と見える程の姿勢を取って、僕は対戦室を見下ろした。
その先で、櫂くんは背中から羽交い締めにされて。
カードを広げたままの、対戦台の上に乗せられている。
上着が剥ぎ取られて。
シャツを捲られて。
抜き取ったベルトで、手首は後ろ手に括られてしまう。

……ああ。
そんな風にしちゃ駄目だよ。
櫂くんは膚が白いから、真っ赤に痕が残ってしまう。
レンさんは、そういうの、怒るんじゃないかな。

勿論、モブの皆さんよりも、櫂くん自身が怒られるんだろうけどね。

「櫂、もっと自分を大事にして。今度こんな傷をつけられたら、お仕置きだよ」

……うん。
そうやって手首の擦り傷に舌を這わせるレンさんと、痛そうに顔をしかめる櫂くん。
そうしてレンさんが腰を揺らしたら、小さい声で、櫂くんはもっと、って言うんだ。

鮮やかにイメージできる。
仲良しなんだ、羨ましいな。

うっとりと想像して、頬が熱くなった。
櫂くんの乱れるイメージ……は、けれど今ここで見られるのかな。
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