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□ミニスカポリスレオンくんの囮捜査
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俺は人混みの中を、破廉恥な服装で歩いていた。
とろりとした生地の白いブラウスは、襟元に同布のボウタイを締めるかたちで、これだけであれば、清楚と見えないこともないだろう。
だが問題は、足元の方で。
紺色のタイトスカートは、少し屈めば下着が見えてしまうくらい、丈の短いものだった。
しかも、身体の線に密着したラインで、高めのヒールを履いているせいもあって、歩きにくくて仕方がない。
太腿の付け根近くから、足の甲に至るまで、両脚を覆うのはガーターストッキングだ。
腰から吊った黒レースのベルトも、このスカート丈では、剥き出しになってしまう。
……これでは、やりすぎではないだろうか。
歩道沿いのショウウィンドウに映る自らの姿は、場末の娼婦のようにあざとい。
この服装で街に出てから、やたらと他人に見られている気がした。
一般と乖離していないか、多少、気にかかる。
(レオンくんは幼いから、年齢を誤魔化す為に、大人っぽい格好の方がいいですよ。脚が綺麗だから、ガーターのレースで飾れば、痴漢なんて、むしゃぶりついて来るに決まってます)
にこやかに言い切る雀ヶ森レンを思い出したら、溜息が出た。
大規模な痴漢行為を組織的に行う犯罪集団の存在を、当局は感知している。
今のところ、狙われる地域は限られていたので、女性捜査員を囮にして実行犯を逮捕、そこから芋蔓式に組織を引っ張り出そう、という計画になった。
白羽の矢が立ったのは、俺よりも数段幼い外見で、頼り甲斐も自信もなさそうな、先導アイチ巡査……俺は自ら、身代わりを買って出た。
たとえ囮とはいえ、女性が卑劣な犯罪のターゲットになるというのは、精神的にも好ましくないだろう。
……それだけだ。
別に。
俺が先導に、何か特別な感情を抱いている、とかでは断じてない。
邪推されても困る。
あくまでも、俺で代わりがきくことなら、俺がやればいいと思ったのだ。
先導が弄り回されるのが不愉快、ということではない。
……ない。
ともかく、そんなタイミングで。
何処からか湧いて出た雀ヶ森なにがしに、俺はOLとやらのコスプレをさせられ、今に至る。
(レンさんは、なんで、レオンくんの脚が綺麗だと知っているんですか?)
真顔で質問する先導を、思い出してしまった。
(さぁ、どうしてだろうね?)
わざとらしくこちらへ視線を向ける雀ヶ森レンの、によによとした笑顔も。
脳裏に楽しげな奴の姿が浮かぶと、それだけで不愉快だ。
あの男は、いつも強引で、いやらしくて、勝手なことばかりで、規律を乱す。
俺のペースも乱されるままで、非常に付き合い辛い。
そう。
厭だと、言ったのに。
貴様が勝手に、俺を弄り回したんだ。
俺は、厭なのに。
この脚も好き放題に触って、撫でて、開いて。
もっと深いところまで指を……。
……ッ。
俺は、何を考えている?
目的は捜査だ。
意思を、しっかりと持たねば。
身体の疼きに流されてはいけない。
思い出しただけで、こんな、あついのは。
鼓動が、速くなるのは。
……気のせいだろう。
下着までも、女性のものを身につけていたから、違和感があった。
きっとそのせいで、妙な感覚が蘇っているだけだ。
俺は、雑踏を足早に抜けた。
今からなら、帰宅時のラッシュに間に合う。
俺の後ろから、他の捜査員も続いているはずだ。
かつかつ、と。
舗装を蹴って、踵が鳴る。
背筋が自然と伸びるのは、悪くない。
前から来る若い男の集団が、こぞって、俺の太腿へと視線を落とした。
先程擦れ違ったスーツの男たちも、脚ばかりを目で追っていた気がする。
……自意識過剰だろうか。
実に、本意ではない。
が。
順調な捜査の為には、よい傾向だと思っておこう。
俺は駅ビルを抜けて、あらかじめ支給されていたICカードを使って、改札を通った。
庶民の乗り物は、慣れない。
これで本当に通れるのだろうかと、若干不安を覚えたが、特に問題はないようだ。
ホームには、溢れ出しそうなほどの人が、ひしめき合っている。
ぶつからないで歩くことが、そもそも不可能だった。
押されて。
突き飛ばされて。
よろめくと、また、他の人間にぶつかる。
……下々の民は、大変だ。
満員電車というのは、聞いた話だと、これよりも密度の高い空間だとか。
息は出来るのだろうか。
そもそも。
そのような状況で、どうしたら性欲を高め、女性に不埒な振舞いをするに至るのか。
俺には、一生、理解できそうにない。
理解できていない俺が、ターゲットになりうるのか、どうか。
列車を待つ列に並びながら、俺は密かに溜息を吐いた。