【RGB】

□#1 teamFF、先導アイチ
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天の高みに透けるような、氷片に似た、月。











#1 teamFF、先導アイチ










ねぇ僕は。

僕の選択は。

正しかったのかな?

……櫂くん。


勝者の名が呼ばれて、僕は卓に拳を打ちつけた。
こんなはずじゃなかった。

俯く顔に髪が落ちて、表情を隠す。
苛立ちを隠す。
焦りを隠す。
けれど泣いちゃいけない。
歯を食いしばってもいけない。

顔を上げろ。
胸を張れ。
歩き出せ。
毅然と。

僕はレンさんに選ばれた。
僕がみっともなければ、レンさんの恥になる。

静寂の中に、さざめきがある。
FFのファイター達は教育が行き届いていて、無駄な私語もない。
僕に向かう視線も、あくまでも控え目で、ぶしつけさはない。

だけど状況は衆人環視、僕は知っていた。

「先導アイチ、一敗です」

事務官に伝える声が、揺れないよう腹に力を入れた。
壁面を一面に覆うディスプレイ上で、文字配列が改竄される。

1:雀ヶ森レン
2:新城テツ
3:鳴海アサカ

毎日どころか刻一刻と変化する順列のトップは、素知らぬ顔で不動の三人。
チームFF,AL4。

(アイチくん、歓迎するよ。空席のAL4四位に、きみを迎えたい)

僕は届くのだろうか。

黒い文字列はつめたい。
雀ヶ森レン、と短く表記されたところで、そこには何もない。
ただ不動の一位という情報だけが、それでも輝いている。

視線を落とせば、ずっと下がって、知った名もある。

7:矢作キョウ
11:美童キリヤ

僕は更に下だ。

彼らには一度は勝ったけれど、今対戦して勝てるかどうかはわからない。
順位に差がありすぎて、再戦を僕から申し出ることができるような身分ではなかった。

先導アイチ

自分の名前がくるくると動いて、移動した先を見る。
現在の順位は、六十八位。

AL4候補生として、当主自らFFに参入させた、輝けるルーキーの末路が、これだった。

立ち止まることは出来ない。
冴えない僕を、それでも全員が注視している。

強さが絶対のFFだったが、当主の寵愛、という特権で、僕は真理を飛び越える。
そんな風に邪推する輩も、居るということだ。

背を伸ばせ。
前を向け。
表情を変えるな。

僕は、強い。

静寂の中を進んで、対戦スペースに戻った。
白々とした平坦な照明が、眩しくて気に障る。

対戦相手は機械が選出するから、僕達は相手のプロフィールも知らずにただファイトする。
全員が所持する端末には、戦績の全てが表示されるし、過去のファイト映像も見られた。
当然、前日には予習をしてから試合に臨むのだけれど、僕にはだからといって、全てのファイターを個人として識別することは出来なかった。

多分、皆がそうだろう。

名前は記号で。
戦績はデータだ。
機械の癖を把握するようなものだ。

よろしくおねがいします、ありがとうございました。
通り一遍の挨拶しかしないまま、本部を後にする日が常だった。

(櫂くん達と居た頃は、)

くだらない話をしたね。
つまらないファイトもしたね。
弱い子も強い子も、友達だったね。

僕達は、いつも笑って、怒って、喧嘩して。
好きになったり嫌いになったり、したね。

……ああ、馬鹿馬鹿しい。

こんな。
僕は。

女々しい僕はきらいだ。

理想のように勝てないからって、逃げているんだ。

思い出なんかいらない。

そうでしょう、櫂くん。
そうでしょう、レンさん。

僕は此処を選んだ。
僕の居場所は、もう此処にしかない。

スタンダップ、

声を、出す。

立ち向かえ。
俯くな。
目を開け。

僕はファイトに没入した。
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