長い夢

□目
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視界が赤くなった
全てが赤くなった


あの日あの部屋から
全てが赤くなった
赤い部屋
赤い血
赤く染まった3つの箱


その日から俺の世界も
赤く染まった






「アニキ?」
妹の真守からバイト帰りに電話がかかってきた
「今日、実家帰ってくんだよね?」
「…あれ、
そうだったっけ?」
「あっ、ひでー!!あたしの誕生日つったじゃん!!
それとあんたのはげましかねて!!」
「あーゴメン悪かった
じゃあ今から行くよ」


試験前に実家に戻れっていう家族もそうはいないだろう
うちの家族らしいけど

プレゼントは…何にすっかなぁ



通りをぶらついていたとき
丁度目に入った薔薇のピアス
アイツに似合うだろう
「プレゼント用にお包みいたしますか?」

実家に帰ったら真っ先に言おう
誕生日おめでとう、と
そんで、このピアスをつけてやろう





「ただいま」


誰も返事をしない
いつもなら真守が忙しなく走ってくるはずなのに
「?」

嫌な予感がした
そして俺の予感は最悪の形で的中する





リビングに入る前からしていた鉄の臭い

リビングに入ってから目に飛び込んできた赤

次に、見開かれた真守の目


「…………………………」




夢、そう思いたかった
でも頭は冷静に状況を判断する
家族が、殺された
そして本能的に悟った


3つの箱に3人の一部が詰められている。と






気が付けば警察が部屋を調べていた
俺は特に何もすることが無く
ただそこに居た


一週間がたった
でも血の臭いは取れない
もう血は拭き取られたはずなのに視界から赤が消えない

「どういうつもりだ笹塚ァ!!
試験にも出てこないで何をやってる!」
T種試験当日、笛吹から電話がかかってきた
怒鳴り声でまくしたててくる
「…悪い」
「悪いじゃない!!
まさか大学の成績ぐらいで勝ち逃げする気か!?」
そんなのどうでもいい
「警察の中で俺は出世する!!
おまえは俺と同じ職場にいて…
最終的には俺の方が優れている事を認める義務があるはずだ!!
それを…
それを家族が皆殺しにされたぐらいでなんだ!!
そんな言い訳で勝負から逃げるなんて…
絶対に俺は認めないぞ!!」

悪い、笛吹






試験を受ける気にもならず
家にいることもできず
離れた公園でボンヤリとすごす
その時に1人の少女と出会った
恐らく8、9才
少し哀しげな瞳が印象的だった

「どうしたの?」
「……別にどうも」
「頭いたいの?お兄ちゃん辛そうだよ?泣いちゃったら楽になれるんだよ?」
「………………」


小学生の子供に心配され、その上、子供相手に無視を決め込むのも気が引けた

……まだ他人を気にする余裕がある自分に苦笑する
「まぁ…大丈夫」
「…なら、いいの」
ストン、と何故か俺の横に腰をおろした


その時に女の子が哀しそうにする理由がふと気になった

「……なんかあったの?」
「…ううん……何もないよ!」
「ふーん…」




少しの沈黙の後
彼女はボロボロと涙を溢しながら脈絡無く話し出した。

両親の仲が悪いこと
母親は好きだが知らない男を連れて来ること
父親は暴力を奮ってくること

分かったのはその事情だけだ

でも分かっただけで俺にはなんの力もない
役にたたない

俺に出来ることと言えば…ただこの子の側にいて泣いているのを見てやるだけ
たったそれだけだ
妹の誕生日におめでとうも言ってやれなかった俺
なんてちっぽけな存在

それでもその子は俺に抱き付いたまま泣き、10分後にはケロっとした顔で笑顔になった
「ありがとうお兄ちゃん!」
その笑顔が眩しかった

「…………そろそろ帰んな。お母さんが心配するよ。」
「だいじょうぶー!…じゃないかも……またパパに怒られる」
再び泣きそうな顔で見られるとどうにかしてやりたくなった
「…来な」
「え?っわぁ!!」
小さい体を抱き上げ家の近くまで送り届けることにした
その途中も彼女の楽しげな喋り声はやむこと無く続く
だが家に近づくにつれて声が沈んでいくのがわかった


「ここら辺でいいの?」
「うん。パパ達に見つかったら怒られちゃうから…
あっ、そうだ!お兄ちゃんにコレあげる!!」
そう言って渡されたのは髪の毛を2つに縛っていた左側のゴム
「…何、これ」
「あのね、同じゴムを持ってるとまた会えるって教えてもらったの!
だから…持っててほしいの」
「……」
俺はそういう類いは信じない
でもその子がきれいで哀しそうな瞳をしていたから
俺はその苺のゴムを受け取った





それから俺はアフリカへ飛んだ
妹の目から逃げるために
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