短い夢

□好敵手
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警察学校時代からのライバル
笹塚衛士


アイツは成績優秀で私はいつも2番目
追い付こうと必死にやったけど

結局、就職した今でも笹塚の方が上だ



「名字、行くぞ」

「りょうかーい」

「…なんだよソレ」

「別に
ほら、行くよ!」

「さっきそれ言ったから」

なんら警察学校の時と変わらない
仲の良さは今も昔も周りに誤解されるほど
…誤解される通りだったら良かったんだけどね

実際は本当に仲がいいだけの友達








「……はぁ…酷い事するね…」

「…そーだな
まだ若いだろうに…」

私達が向かったのは女性の水死体があがった川
全裸になったその体には無数の傷跡がついていて痛々しかった


笹塚は全く顔色を変えずに捜査を続けた

「…笹塚さ、やっぱ動揺しないよね」

「…………そーでもねぇよ
俺だって動揺する」

「そうなの?」

意外だ
何にも動じない男だと思っていたから


それってどんなこと?
と聞こうとしたけど、何故か聞きにくくなって止めた



「…解剖出てからじゃねぇと進まないな」

「そうだね…一旦戻る?」

「…あぁ」



車の中でなんとなく気まずくなって私は妙に喋りたてた

「あの死体、持ち物とか無かったよね」

「あぁ」

「解剖出るまでに保険証とかみつかるかな?」

「さぁな…」

「なんで服まで無いんだろうね」

「そりゃ…

…………どうした?
名字なんか変」

「……そう?」

変なのは笹塚だよ
なんでさっきから遠く見てんの
いつも飄々としてるのにおかしいでしょ


「……同じ女としてはちょっと現場見るの辛くて」

「………そーだな…」

ちょっと不思議そうな顔をしたけどあっさりと聞き過ごしてくれた

そして再びどこか遠くを見ていた





次の日、笹塚は全くいつも通りだった
私は昨日の事が頭に引っ掛かりつつもいつも通り書類整理に追われていた


「名字」

「なに?」

「ちょっと仮眠とってくるから」

「了解、一時間?」

「んー…30分」

「分かった、おやすみ」

「ん…おやすみ」

私は笹塚を見送り、タイマーを30分後にセットして仕事を再開した



「……分かんない…」

笹塚が仮眠室へ行って20分後
どうしても書類が足りない
笹塚のとこにあると考えた私は悪いとおもいつつも、笹塚の机の上の書類を漁りはじめた



目的の書類はあったものの
私は大変なものまで見つけてしまった







   笹塚さん一家惨殺!




なに、これ






私は咄嗟にその書類ケースを閉じ、バクバクする心臓を抑えながら周りに悟られないように平静を装って自分の席へ戻った




でも心臓は嫌な音で動き続けた

なんで
あの家族は笹塚の家族のこと?
あぁそう言えば家族の話なんてほとんどした事ない
なんで言ってくれなかったの?
たまに感じる負の感情はあの事件のせいだった…?


ピピピッ…
「っ!!」

自分でセットしたアラームに自分で驚いた
私はなんとかアラームを止めて仮眠室へ向かった




「……」

そこに眠るのはいつもの笹塚
でも私には違う人のように見えた


この人はどんなに重いものを背負ってきたんだろう

なんであんなに優秀だったのか、分かった気がする
憎しみが彼を動かしていたんだ


「……名前…」

「!」

寝言で私を呼ぶ彼に心臓が高鳴る
けれど、それは次の一言で掻き消された




「……ま、…………もり…」

まもり、真守
笹塚の妹の名前だ

こんな時になまじ記憶力がいいと辛い
まもり、私はこの響きを一生忘れないだろう



そして一瞬で理解した

笹塚が周りの人より私を気にかけていたのは
妹の真守ちゃんと私を重ね合わせていたからだ




その事実にらしくもなく涙が溢れてくる





「…………
…え?
どうかしたか…名字?」


寝惚けた優しい声で私を呼ばないで
私はあんたの妹じゃない



「あぁ、ごめん…
なんか目にごみ入って取れないから誰も居ないとこで泣こうと思って」

「………………」

「っ……」


私は貴方の前で弱くなっちゃいけないから


私と貴方はライバルであり
貴方は私の好きな人

お願いだから、その関係だけで居させて



「名字…?」

「笹、塚……」

「なんかあったら頼っていいから…」

優しく頭を撫でるその手は
なにを求めていますか?






好敵手





どうかこのままで






 

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