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□あおぞら
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青空の下、白球を追い掛ける君。
君を目で追う僕ら。

河川敷に固い音が響く。
「オーライ!」
右翼の守備についていた選手のグローブにボールが吸い込まれる。
「アウッ!」
「ツーアウトー!」
「あと一人!」
選手たちが声を掛け合う。ピッチャーとしては気持ち良い瞬間だ。
桜井がマウンドに戻り、ボールを握る。と…。
「ヘボピー」
「打たれろー」
土手の辺りから野次が聞こえる。そちらを見れば、二人の男が。
「てめぇら、うるせえぞ!」
桜井が怒鳴り返すと、その二人はきゃっきゃと笑い声をあげた。

攻守交代になった。自分の打順が回ってくるまで桜井は土手に上がる。
「お前ら何してんだよ」
「今日オフだから」
「そうそう」
「で、俺がちょっと欲しいものがあって出掛けようと思ってたら、高見沢が一緒に来たいって言ったからさ」
「そうそう、坂崎に付いてきたんだ」
「ねー」と言いながら二人で顔を見合わせる。

−いい年してるくせに、何が『ねー』だ。

「で、帰りに俺をからかいに来たのか」
「あー、そう言うか?せっかく人が応援にきてやったのに」
高見沢が唇を尖らせる。彼の声は河川敷中に響き渡りそうだ。
坂崎の方は早速カメラを構えている。
「…会報に載せるとか言うなよ」
「んー、良いのが撮れればね。桜井さんの見事なエラーとか」
「あ、ばか」
怒ってみるが、全く聞いてないようで、にこにこしながら「出ないかな〜」などと呟いている。
「桜井さ〜ん、ネクスト!」
チームメイトが呼びにきた。
「今行く!」
「がんばれー」
「フライとかー」
「それじゃ頑張る意味ねぇだろ!」
土手を下りながら桜井は怒鳴った。それに反応して二人がまたきゃっきゃと笑う。

−本当、しょうもないやつら。

呆れつつ桜井の口元も笑っている。
「さて、あいつらに格好いいところを見せてやりますか」
一つ大きく息を吸い、バッターボックスに立つ。

−真ん中が来たら…振る!

青空の下、気持ち良い音が響いた。
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