ばいばい、まいさい

□目を覚まして、光を見たい
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長い間、ひとりぼっちで白い空間に閉じ込められていた。
涙も枯れ果ててしまったのか、目からは何も出ない。
辛いのに、出ない、出ない。



あれ?



なにが、こんなに辛いんだっけ。


スゥッと目を閉じれば、目の前が真っ黒になった。











「…起きた?」

「………重いです。即刻どいてください」



態々起こしにきたのに重いとはなんだ、重いとは。


―自宅前で、幼馴染の黒子テツヤを待っていても、彼が来る気配はなかった。

いつもは あの時間に来ていた。
腕時計を見れば時間はだいぶ進んでいる。
黒子め、ぐっすり寝てやがるな。

外見上は大人しく、しっかりしていそうにも見えるが、私には、未だに布団の中で安眠している黒子の姿が容易に想像できた。


…様子を見に来てみれば案の定寝ていたから、黒子の上に女王様の如く座ってみた。
ら、う"っ…と苦しそうな呻き声をあげて、見事に起きてくれた。
めでたしめでたし。



「こら。ちゃんと起きなさい」

「…………目が開きません」



確かに、起きたばかりの目には眩しい日差しだけどさ。

上半身を起こし、目を眩しそうに細める黒子から 、毛布をバッサと剥いだ。
温かい毛布を奪われ、彼は不機嫌そうに私を睨んだ。いやいや。



「君が圧し掛かってきたとき、夢の中で潰されました…」



心臓に悪い、やめてください。

って、
知らないよ。
その代わり起きれたんだから、いいじゃない。
というか圧し掛かったとか失礼だ。潰されたっていうのも。


のそのそとベッドの上から降りる黒子の頭には酷い寝癖。
どうやって寝たらこんな寝癖がつくのだろうか?と不思議になるくらい。

制服に着替えるために、服を脱ぎ上半身裸になりかけて、黒子は私の方を見た。
あ、 と言いたげに。
私も自然と視線を逸らして黒子の方を見ないようにした。
…小学校の時は全く気にしていなかったのに。
私の黒子に対する呼び名とともに、少しずつ変わっていっていた。


私は、「外で待ってるね」と彼の部屋から抜け出した。









隣で歩く彼の髪が、ピョンピョンと揺れる。



「寝癖、直ってない」

「…どうも」



黒子の跳ねた髪を撫でつける。
柔らかい髪だ。どうして寝癖が付くのか。



「まだ眠そうだね」

「…まあ」



中学一年生の初めの頃、彼が寝坊することは多々あった。
それは、帝光バスケ部の練習が、想像以上に体への負担が掛かるものだったから。
ハードな練習に慣れてきたとともに、彼が寝坊することもなくなった。
でも、バスケ以外の決定的な寝坊理由が、黒子にあることを私は知っている。



「夜更かししたんでしょ。面白い本でも借りた?」

「その通りです。予想以上に面白くてつい読み入ってしまいました…」

「あらやっぱり。どんな話ー?」



寝坊するくらいなら、キリの良いところで読むのをやめればいいのに。
と、思うのだけど、黒子の気持ちは良く分かる。私もハマったらとことんなタイプだから。

黒子は話の内容を思い出しているのか、目を伏せて話し始める。



「幽霊になった主人公が、生前の世界で過ごしていく話です」



ん〜、と私が唸ると、黒子が鞄の中からその本を取り出し、私にみせる。



「それか、読んだことある」

「さすがです」



活字中毒かっていうくらいの本好きな私は、学校の図書室にある本はほとんど読んできた。
現在黒子と一緒にいるようになったきっかけも、本。


黒子が差し出してきた本を手にとって、ぺらぺらとページをめくる。
懐かしい、内容を思い出す。
結構、印象に残ってた話だ。



「不思議な話だよね」



不思議で、切なくて悲しい話。
とても温かい話だった。



「はい。…続き言わないでくださいよ」



分かってるって。
どうやら君はその話をとても気に入ったみたいだね。



黒子が手にする本は上巻。
上・下とある物語。





物語は、まだ始まったばかりだ。












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