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□甘い甘いチョコ
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いつも通りに練習に励む。
三橋には異変はない。(有ってもおかしいんだが)
練習帰りにチョコを買っていこう。
そう思った阿部だった。
*
「お疲れー」
どうもこのへらへらした顔が嫌なのかさらっと無視をしてみた。
「あべーそれはないっ」
泣きそうに寄ってくる
「黙れクソレ」
情報網からして、一番情報を得るのは水谷からだ。
だが三橋の事を俺よりも早く知っていた。
とゆうのが気に食わないらしく、そうゆう訳で最近スルーしている。
懲りずに寄ってきている水谷も凄いのだが。
「わかったよクソレは認めるから無視しないでよー」
認めても認めずとも満場一致でクソレ、それに変わりはない。
「わかった」
「まじ?」
「クソレは撤回、だからもう黙れ…」
溜め息混じりに言う
「うおっ!おっけーやったねー」
あちゃーとその場に居合わせたメンバーは思った。
(((お気の毒に…)))
クソレを撤回=無視続行
その事に気付かない水谷文貴だった。
「あべくん…」
次は誰だ?と振り向くと、悩みの種がそこにいた。
「どうした?」
不自然か?
「えと…一緒 に帰ろ?」
この後チョコを買いに行くのに一緒に帰れる訳がない。
もちろん渡す当人だからだ。
「ごめん、この後行かなきゃいけねぇ所があんだ」
「え…あっうん」
あからさまにしょんぼりする三橋を見て少し悪い気がした。
「明日、帰ろう…絶対」
照れ臭くて顔を背ける。
「うんっ!」
ぴよぴよと顔の周りに花が見えた気がした。
(言うんじゃなかった)
悩殺物の笑顔に目眩を覚えた阿部だった。
校門でみんなと別れた後全力で自転車をこぐ。
いつもの練習よりきつく感じた阿部だった。
時間は刻々と迫っている。
目をつけていたお菓子やさんが、6時までしかやっていないからだ。
「開いててくれっ」
急いでお菓子やの駐輪スペースに自転車を停める。
駆け寄った自動ドアに顔面をぶつけそうになるが、スポーツマンとして瞬時に一歩引き、何事もなくドアをくぐる。
ファンシーな店内には季節物のケーキやクッキー、もちろんホワイトデーのチョコもあった。
「いらっしゃいませー」
改めて考えると、こんなお店に男一人不自然なのか?
「あの…すみません…ホワイトデーのチョコを…」
「はいっチョコですねっ…少々お待ちを」
「はい」
店員からはハッスルなオーラが漂っていた。少し苦手だ。
「申し訳ありませんっ只今チョコがこの1品限りとなっています」
「そうですか」
三橋の分さえあればいい。
今まで貰った分だけ返してた阿部。だからチョコを買いにいくのだって、抵抗はないし渡すのだって、抵抗はない。
だけど今年は好きな奴ができて…今、そいつだけに渡したいって思った。
毎年くれる子には申し訳ないけど…
「じゃあそれで…」
「はいっかしこまりました。」
奥からチョコが出てくる
チョコより目にとまったのは、
「あ、」
知り合いのおばさんだった。
「あらー隆也くんっ!久しぶりー大きくなったねー、まだ野球やってるのー?シュウくんは?……あら今日はなに?…チョコ買いに来たの?」
マシンガンみたいに言葉を降らすおばちゃん。
前に近所に住んでいたが今はどうなのかは知れない。
「えぇ」
最後の問いにしか答えられない。
「ほんとぉーで、何人から貰ったのよー?」
あまり聞かれたくない事を聞かれる。
別に毎年毎年チョコを貰っている阿部にしては、自慢するにも、目新しさがないのである。
所謂阿部にしては当たり前なのだ。
「えと…20いくつっすかね…」
「わっ!すごいっ…モテるのねー、いい男になったものー」
少し恥ずかしくなる。
「そんなこと無いですよ」
「1個で足りるの?えーとねまだ材料あるから作ってあげられるかもしれないわ」
「いやっいいです…本当に…好きな奴だけに…あげるんで…」
他人に言うようで自分にも再確認。
「そっ」
そのあとあのマシンガントークも消え
綺麗に包みに入れ、尚一層可愛くなったチョコを見てまた照れ臭くなる。
ありがとうございましたと言って自動ドアが閉まる。
暗い闇、街灯に照らされた阿部の顔は満足感に満ちていた。