book

□甘い甘いチョコ
2ページ/4ページ

いつも通りに練習に励む。
三橋には異変はない。(有ってもおかしいんだが)


練習帰りにチョコを買っていこう。


そう思った阿部だった。







「お疲れー」

どうもこのへらへらした顔が嫌なのかさらっと無視をしてみた。


「あべーそれはないっ」

泣きそうに寄ってくる


「黙れクソレ」

情報網からして、一番情報を得るのは水谷からだ。

だが三橋の事を俺よりも早く知っていた。

とゆうのが気に食わないらしく、そうゆう訳で最近スルーしている。

懲りずに寄ってきている水谷も凄いのだが。


「わかったよクソレは認めるから無視しないでよー」

認めても認めずとも満場一致でクソレ、それに変わりはない。

「わかった」

「まじ?」


「クソレは撤回、だからもう黙れ…」

溜め息混じりに言う

「うおっ!おっけーやったねー」


あちゃーとその場に居合わせたメンバーは思った。


(((お気の毒に…)))


クソレを撤回=無視続行

その事に気付かない水谷文貴だった。



「あべくん…」

次は誰だ?と振り向くと、悩みの種がそこにいた。


「どうした?」

不自然か?


「えと…一緒 に帰ろ?」

この後チョコを買いに行くのに一緒に帰れる訳がない。
もちろん渡す当人だからだ。


「ごめん、この後行かなきゃいけねぇ所があんだ」

「え…あっうん」

あからさまにしょんぼりする三橋を見て少し悪い気がした。


「明日、帰ろう…絶対」

照れ臭くて顔を背ける。


「うんっ!」

ぴよぴよと顔の周りに花が見えた気がした。

(言うんじゃなかった)

悩殺物の笑顔に目眩を覚えた阿部だった。





校門でみんなと別れた後全力で自転車をこぐ。

いつもの練習よりきつく感じた阿部だった。

時間は刻々と迫っている。
目をつけていたお菓子やさんが、6時までしかやっていないからだ。

「開いててくれっ」



急いでお菓子やの駐輪スペースに自転車を停める。


駆け寄った自動ドアに顔面をぶつけそうになるが、スポーツマンとして瞬時に一歩引き、何事もなくドアをくぐる。



ファンシーな店内には季節物のケーキやクッキー、もちろんホワイトデーのチョコもあった。

「いらっしゃいませー」

改めて考えると、こんなお店に男一人不自然なのか?


「あの…すみません…ホワイトデーのチョコを…」

「はいっチョコですねっ…少々お待ちを」


「はい」


店員からはハッスルなオーラが漂っていた。少し苦手だ。


「申し訳ありませんっ只今チョコがこの1品限りとなっています」

「そうですか」

三橋の分さえあればいい。
今まで貰った分だけ返してた阿部。だからチョコを買いにいくのだって、抵抗はないし渡すのだって、抵抗はない。

だけど今年は好きな奴ができて…今、そいつだけに渡したいって思った。

毎年くれる子には申し訳ないけど…


「じゃあそれで…」

「はいっかしこまりました。」

奥からチョコが出てくる

チョコより目にとまったのは、

「あ、」

知り合いのおばさんだった。

「あらー隆也くんっ!久しぶりー大きくなったねー、まだ野球やってるのー?シュウくんは?……あら今日はなに?…チョコ買いに来たの?」

マシンガンみたいに言葉を降らすおばちゃん。
前に近所に住んでいたが今はどうなのかは知れない。

「えぇ」

最後の問いにしか答えられない。 

「ほんとぉーで、何人から貰ったのよー?」

あまり聞かれたくない事を聞かれる。

別に毎年毎年チョコを貰っている阿部にしては、自慢するにも、目新しさがないのである。

所謂阿部にしては当たり前なのだ。

「えと…20いくつっすかね…」

「わっ!すごいっ…モテるのねー、いい男になったものー」

少し恥ずかしくなる。


「そんなこと無いですよ」

「1個で足りるの?えーとねまだ材料あるから作ってあげられるかもしれないわ」

「いやっいいです…本当に…好きな奴だけに…あげるんで…」


他人に言うようで自分にも再確認。


「そっ」

そのあとあのマシンガントークも消え

綺麗に包みに入れ、尚一層可愛くなったチョコを見てまた照れ臭くなる。


ありがとうございましたと言って自動ドアが閉まる。

暗い闇、街灯に照らされた阿部の顔は満足感に満ちていた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ