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□雨玉-アメダマ-
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言葉を交わさなくても
目を合わせなくても


それでも……


一緒にいる、それだけでいい。


溢れるばかりの幸せ


溢れるばかりの不安


情緒不安定な俺の心臓は、とっても駆け足で、1分間に何回脈打ってもまだ足りない。




何度も想像する




水谷とのハッピーエンド

自分の都合のいいようにした都合のいいハッピーエンド、何度願ったか





「ごちそうさま」


「えーもう食べ終わったの?」

水谷の弁当は後1/3位残っていた。

「これが普通だって、水谷が食べ過ぎなんだよ」


「健全だ、まさに健全」

残りのご飯をかきこむ。

「午後眠くなっても知んないよ」


「ふわぁー……眠い」


拳が入る位大きな口で欠伸をする。欠伸がうつりそうだ。

「言わんこっちゃない」



もうすぐチャイムがなる5時限目は理科の授業で移動教室だ。


パラパラと人が減り始める


「ふわぁー……ねー、次の授業なに?」

机に突っ伏した顔を少し上げた。

「理科だけど」

「そ、」

目線は窓の外にあった


騒がしかった教室が静まり、人がいなくなる。


「俺移動教室だから行かなくちゃ…水谷も戻んなよ…」

机に手を付き退屈そうに言う。

「ちょっと待って…」



―バサッ―


思考が追い付く前に、頭が理解する前に、すでに俺の目の前で事件が起こった。


「ねむ……い」


自分の膝の上にはふわふわしてて少し茶色い頭がトスッ、っとのっかる。



「遅れていけよ……」

目線はまだ窓の外にある。

「えっあ、ちょ」

恥ずかしさに目を瞑る



「イヤ?」



イヤな訳ない
都合の良い妄想なんかじゃ分からない…それ以上の事件が目の前で……



「イヤじゃない…」

ぎゅっと瞑った目を開けると俺を膝の上から見て笑う水谷と目が合う。


「良かったっ」


キラキラと笑うその顔が眩し過ぎて愛しくて



「なぁ水谷?」

有らぬ方向を見ながら問いかける

「……」

「ねぇっ……ぁ…寝て、る?」

少しほっとしたようなしていないような顔をする。


耳を澄ますとスースーと寝息をたてている。

触れたくなるような
ふわふわの髪の毛、長い睫毛


「綺麗だな」


「ん…」


「あっごめっ」

手をバタバタさせ動揺を隠せていない。目線も右へ左へ

「……」


「……はぁ…」


心臓おさまれ…


―ドキドキ―



―ドキドキ―



周りの時間が止まってしまったようだ……この静かな世界には俺たちだけで……そんな錯覚に陥る。


「好きだ……」


「んー……な、に?…」
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