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□100円200円の重さ
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「誰かー100円貸してっ」






*100円200円の重さ*







「誰かーって俺らしか居ねぇだろ」

「いやいや俺もいるから」


部活後のコンビニ前



「じゃあ阿部100円貸してっ」


両手を阿部の前に差し出す

「花井に借りろ」

「えー」


そう言いながら花井を見る

「えーってなんだよ」



「いやっごめんっ貸してー明日返すからっ」

「分かったよちょっと待て」


溜め息をつきながら財布を漁る。



「……花井?」





「ごめん使っちまった…」
「えーっ」


「俺さ使う分しか持ってこないんだよ…使っちまうし」



駄目だこりゃと阿部はおもった



「ほらっ」



渋々阿部から水谷に差し出されたのは紛れもない100円硬貨 


「いいの?やったー」


コンビニに走り出す水谷の背に




「3倍返しな」



聞き逃したい言葉が降りかかる。




「………」



「…………」



「えーーっ」


踵を返して阿部の方を見る


「だから3倍返しな」



「待った待った待ったーー阿部ー」

走って阿部の方に寄る

「なんだよ」


「バイトをしていない男子高校生にとって300円とはどれ程大事なものかっ分かっているのかぁ!」


熱く語り出す


「はぁ?」


「少ない小遣いの中で遣り繰りするんだぞ!毎日毎日部活で疲れたあとコンビニに寄って食べるアイス3日分なんだぞ!」


アイスは夏限定なのだが


「そんな風には考えたことなかった」


本当に考えて居ないようで少々水谷が可哀想に思えてくる。


「それと2倍ならまだしも3倍とはっひどいじゃないかっ」


花井は見ているのが面白くなってつい止めるのを忘れていた。



「2倍なら良いんだな」

悪気たっぷりの笑顔


「御主も悪よのぉ……って!なんじゃそりゃぁ!」


とうに花井は吹き出していた。



「明日200円な」


「駄目だー200円なんて!なんかの法律で何%以上の利益?は駄目なんだよ!」

「何%って何%だよ」

「分かんないけど200円って利益50%じゃん!絶対駄目だって!」

「そんなん得してナンボだろ?ちゃんと調べ直してから出直せ」

「でもー」

「さっき2倍なら良いって言ったのだれだ?」

「言質とられ…た」


白き灰と化した水谷は、しょぼしょぼとコンビニへ向かう

水谷の背中を阿部と花井の二人で見つめて
痛いお腹を押さえて見送った。

あれだけ貸してとせがんだのに今更やっぱいいとも言えずに気の毒な背中からは淋しさと虚しさが滲み出ていた。

「100円なんて借りなきゃよかったー」




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