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□雨玉-アメダマ-A
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10分たったら水谷を起こそう。


起こそうって言ってももう授業が終わるし、人が来てしまう。


まだ10分ある


もう10分しかない



考えを巡らせても、どこにも辿り着かず、

ぼぉーっと寝ているその顔を見つめていた。


チャイムがなる



「…水谷……起きて…」

遠慮無しに揺さぶる

「ん…ふわぁ」


「授業、おわっちゃったよっ」

言葉に棘はない


「ん……えっ!……ごめん…ちょっとだけのつもりだったのに、栄口にも迷惑かけちゃった」


「いいよ、全然」


いいよ、本当にそう思う。

水谷の寝ているうちに、いーもの貰っちゃったから


"スキ"


まさかこのタイミングで聞けると思ってなかったし…


思わず笑みが溢れる。


「…何で笑ってるのさー」

詰め寄り、怪しい物を見るように問いかける。

「いやっ……別にっ」

思い出し笑いなんて恥ずかしいのかそっぽを向いて否定する。

「ふーん」


「っほら…戻った戻った…不審に思う輩が水谷のクラスには居るでしょっ」

手をしっしっと振った

「あっ!」

今更思い出したようだ。自分がサボった事を。

「何で居なかったか問い詰められるよー」


早く行くも行かないも阿部と花井からは逃れられないだろうけどね……


「じゃっ」

背を向けながら手だけを振る

「放課後ねー」

こちらも背を向けて返事をした。


スキって言葉に戸惑ってる…だって…だって嬉し過ぎて…大事に胸に閉まっておくなんて勿体ない


タイミングは大事だ


言うのにも時と場所、雰囲気なんかで結果は全く違ってくるもんだし…


そーゆうと水谷は正解だったりして…


―ガヤガヤ―


「栄口ーお前なにしてんだよー」

うちにもいたか

「あっ…巣山…」

申し訳なさそうな顔を作って返事をする。

「皆何で居ないんだって言ってたぜ」

「寝ちゃって…」

寝てたのは俺じゃないんだけどね…

「そっか…」


問い詰められなかった…


良かった…

俺には良い言い訳なんてつけないよ…
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