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□雨玉-アメダマ-B
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「古典?ん?古文?ってさぁーなんかもう……ねぇ…難しいじゃん」

栄口の家へ続く道

「そうかな?難しくなんかないよー?その先入観が駄目なんだって」

ただ単に分からないのは水谷が先生の話を聞かず寝ているのが原因だ

「だってー」

その事を見抜いているのか酸っぱい口調で水谷に言う。

「どうせ寝てたんでしょっ」

「ウグッ」


まずいと言う顔をする。
実際大半の時間は寝ていただろう。

「あと漢文もあるんだよ?」

澄ました顔で言う。

「えっ」

「見てないの?範囲の紙」

自転車なので前を向いている。水谷もだ。

「見てないよぉっ…」

焦った表情で前のカゴに入っている鞄に手を伸ばす。

そしてガサガサとあさる。

「これか?」

水谷の手にはくしゃくしゃの紙があった。

「これだっ!……」

「水谷!まえっ!!」

紙に視線を落としていた水谷の目の前に電柱が迫る。

「おわっ!…あっぶねぇ」

間一髪避けられた。冷や汗をかきながら、ふへっと笑う。

「もー冷や冷やしたよー。家ついたら見なー」

「うん」


自転車で話ながら行く道はそう長く感じられない。
もう着いてしまった。

「久しぶりだなぁー栄口の家来るの」

家を見上げる。


「みんなで来たのが最後だもんね。でもそんなに前じゃないってー1カ月弱でしょ?」

「えっあぁ…うん」


―ガチャ―


「ただいまー……………あれ?誰も居ないみたい…先俺の部屋行っててっお茶出すから」 


水谷を待たずに家の中に入る。

「お邪魔しまーす」

もじもじして玄関に突っ立っていた。

「玄関にいなくていいよー先部屋いってていいからー」

なぜわかったのだろう。奥から水谷は見えないのだがそう言う。

「おー…」

麦茶に氷の入ったグラス、お菓子を用意して自分の部屋へ向かう。

「…………」

手が塞がっていてドアが開けられない事に気づく。

思考回路を巡らすが足しか空いていない。

片足を上げてドアノブにかける。これ以上足を上げると、手に持っている麦茶が落ちてしまいそうだ。

色々試すが少し無理があった。

「水谷ー開けてー」

結局そこに辿り着く。最初っから声をかければ良かったものなのだが。

「へー?」

間の抜けた声を出す。
開けてーの一言を直ぐに理解出来ていないのも水谷らしい。

「ドア開けらんないんだよー」

主語を付け足し再び催促。

「ういー」


わかったようで
目の前のドアが開く。


「ありがと」

「どいたました」

「なにそれっ」

テーブルの上には既に水谷の物らしいノートが広げてあった。

「じゃっやろっか」

「うん」


栄口も自分のノート机の上に開く。

「どこまでやって来たの?」

自分のノートをペラペラめくりながら問う。

「教科書読んで…ノート見直して…んー配られたプリント見たよー」

誰もがそれくらいやるのだけど、そこまでやってくれたのならいいかなと思った。

昨日やっていた古文はすんなりサクサク進み、栄口が頭を悩ませる事は無かった。

「模擬問題やろっ」

そう切り出したのは水谷。つい先日までちんぷんかんぷんだったのに、どこからその自信が出てくるのか。
「いいよっ」

きりのいいとこまで古文は進んだ。別に模擬問題をやるくらいには支障はない。
「うしっ頑張る」

あからさまに腕捲りをして、シャーペン片手に裏返った問題用紙を見つめる。

「じゃあ15分ね、とりあえず俺もやるから話し掛けるのはダメね。じゃあ……………スタートっ」

部屋の中に響くのはペンを進める音と時計が時間を刻む音だけ。

時折水谷のふにゃっとした声が聞こえるがそれ以外に音はしない。


―ピピピ、ピピピ―
タイマーの音が部屋に響き渡る。

「ふぃー」

「ちょっと自信あるよ」

「えー俺ないー」

じゃ丸つけするか、と栄口の一言でシャーペンを赤ペンに持ち変える。

「読み書きからね」

「うん」


「(1)は渓谷」

「ウグッ…」

水谷はしょっぱなから間違えたようだった。そして先程とはまるでテンションががた落ちしているのが丸分かりだ。

「漢字もやんなきゃダメみたいだね」

「うん」

「(2)悠久」

「ウグッ…」


こんなやり取りが続き採点が終わる。


「結果はっぴょー」

「俺……42点…………はぁ…」

視線は床にあった。
相当落ち込んでいるようだ。

「俺は…」
「聞きたくなーい」

「えっ…」

「どうせ96点とかでしょー」

自棄になっている。


「……正解…凄いね…」

「すごくねー…つか当てても凄くないし意味無いー」

もう笑うしかない。


「あははは…じゃ次っ漢文やろっか」
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