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□雨玉-アメダマ-C
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side:Mizutani
ここは読まず飛ばしても、話がわからなくなることはありません。
「きったよー!」
掃除で机を運ぶのは辛い1つや2つは良いのだが、沢山運ぶとお腹が痛くなってくる。
扉を開けた水谷は、ドアに手をかけていたと共にお腹にも手を当てていた。
「おそかったね水谷」
「あの後ごみ捨てにも行かされちゃって」
ごみ捨てに行ったのは本当だった。でも"行かされた"のではなく自分で"行った"の方が少し正しい。
本音不貞腐れていたのだ。
先日までは二人で勉強をしていたのに、今日は皆と図書室。
栄口がメンバーにとられてしまった気がした。
気持ちを切り替えようとごみ捨てに"行った"のだ。
水谷はドアから真っ直ぐ栄口の座る国語の机の方へ歩いた。机の前にたって国語の教材を出す。
「ダメだよ水谷は向こう」
栄口の指先には数学の席
「えー」
「えーじゃないよ、今日はいつもやってないのやんの」
「…わかった」
張り切って出した国語の教科書をバックに入れる。
とぼとぼ歩く。そして阿部の前に座る。
「はじめっぞ」
阿部の一言で勉強が始まる。
どうしても栄口の方へ目がいってしまう。だって気になるのだ仕方がない。
今栄口を占領してるのは水谷じゃなくて三橋と田島。
ちょっとまえまで同じ空間、同じ時間を共有して楽しく勉強してたのに、今水谷の前に座ってるのは鬼の阿部だ。
(栄口の前がよかった。いや、隣に…。)
「俺…国語やりたい…」
何気無く、誰に伝えるでもなく、そう呟いた。
「……数学は嫌、ってことか?」
阿部は聞いていたらしい。
「いやっ……別にっ…気に…しないで」
「そうか…」
「うん」
放課後を包む風は少し湿っていて、蒸しっとした。
なんとなく夏を感じさせる気がする。
(栄口と…勉強したかった…)