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□雨玉-アメダマ-D 
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「どうゆうこと?」

「2ケツだってー、俺漕ぐから栄口後ろ乗って?そんで傘さしてくれたらいいから」

一瞬自転車を揺らしたかと思うと。
傘を指さしにこっと笑う。

「俺おっ重いよっ!」

俺が後ろにのるの?と言わんばかりに焦り出す。

「栄口は女子かよっ」

水谷も後ろに乗るつもりもなく、誤魔化すように歯を見せて笑う。つられて栄口も笑ってしまった。

「…はぁー…わかったよ…」

いつも折れるのは栄口だ。

「走ってるとこに乗れる?」

自転車に股がってもう準備万端。
いつでも来いと言わんばかりに。

「大丈夫だよ?」

「よしじゃあ乗って!」

水谷が勢いよく漕ぎ出す。栄口も傘をたたんで走り出す。

「よいしょっと」

栄口は素早く乗ると傘を開いて水谷にさす。

「ふぃー、全然重くなんかないよ?」

後ろをちろっとみてまた前を向く。
前方不注意は結構怖いものだ。現にこの前電柱にぶつかりそうになったわけで。

「へへっ…、2ケツなんて久しぶりだよ」

「だよなー」

少しの間沈黙になる。
栄口はその間先程に無かった重力を体に感じ、傘に風による抵抗がかかる。

「ちょっまっ水谷?…はっ早いってっ!やっ…ま」

二人は坂道を下る。
2ケツになるとそれなりにスピードも早くなる、自然と二人はくっつく形になり栄口は無駄に動揺していた。

「たっのしー」

「〜〜っ……」

突然黙る栄口の動揺が背中から水谷にも伝わる。

「じゃっじゃあ栄口の家まで送るねっ…」

下り坂が終わり勢いはそのまま、走り続ける。

「いいよっ…そこまでしなくて」

「…〜〜っいいの!」


栄口に見えない水谷の表情は、とても爽やかに笑っていた。


「…わかったよ」

栄口も困ったように微笑んだ。


「んじゃ、そうゆことで」

少し先に見えるなだらかな坂を見て早めにスピードをあげる。

憂鬱になるくらい鬱陶しい雨のなか息を切らして目の前の坂を上る。

「もうすぐだよっ…っ」

「がんばっ」

あともう少し、と栄口も呟く。

「〜〜よぉっと、………はぁっ」

坂を登りきり息を吐く。

「お疲れー」

「家…もうすぐだな」


「うん、……?」 





*



「ありがとね」

栄口の家の前、雨は一向に止まず、降り続いている。

「いいよー全然」

「これ…もってきな」

水谷の手に渡されたのは、先程まで使っていた傘だった。

「いいの?……ありがとう…」

傘を見て栄口を見る。

「明日持って来てくれたら大丈夫っ」


「そか、じゃっ明日学校でね」

「うん、じゃあね」


雨の中栄口は離れて行く水谷の姿を見送った。
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