book
□ハニー×ハニー
1ページ/6ページ
ふわっと香るその花の蜜のお味は?
*ハニー×ハニー*
「はぁ…」
あからさまに溜め息をする。
そこにいた誰もが聞こえた。
「阿部さん…お茶いかがですか?」
焦ってお茶を出す女性
「あぁ…ありがとう」
機嫌が悪い訳じゃない。
ただ疲れているだけ。
この悪い目付き、疲れると尚更悪くなる。
今にでも光線が飛び出しそうな感じだ。
「部長ーあのっ、こっこの件について、電話がっ…」
書類を手に震えながら阿部に歩み寄る。
その震えた手で例の書類見せる部下。
「んぁ?それくらい…自分で処理しろよ」
疲れている所に押し寄せる仕事。
この時期は新入社員が仕事をこなすかこなさないかのラインであたふたする。
「それがっ…」
いかにもヤバいと言う顔をする。
脂汗が額に滲み出ていた。
「わかった……、こっちに回せ…」
また溜め息を吐く
1日何回溜め息を吐けばいいのだろうか。
「外線の二番です」
「わかった………、はいお電話かわりました。部長の阿部です。……ええ、はい、……そうですか………はい…申し訳ございません。…………でしたらすぐFAXにて……はい…転送いたしますので……はい……はい失礼いたします。」
社員はデキる阿部をキラキラ…尊敬の眼差しで見ていた。
「ほらっ…ここを訂正して御社に転送、あとお詫びのメールを入れとけ」
書類を指差しながら指示をする。
こんな簡単なこともできないのか、と呆れた顔をするが部下にはそうゆうふうには見えないらしく、なんと平和なことか
阿部には部下に見える阿部のビジョンが嫌になった。
「はっはいっ!」
目を煌めかせながら走って仕事に戻っていった。
「はぁ…」
また部屋に阿部の溜め息が響く。
「また溜め息かぁ?」
「あぁ水谷…お前か」
「お前か……ってなんだよっ」
この阿部に雑としか思えない扱いを受けているのは、水谷文貴。出身大学が一緒で学科も一緒だった奴である。
一見嫌いなように見えるがそうでもなく、その当初からこんなんであった。
「"お前"の何がわりぃんだ?」
デスクに頬杖をつきいかにもだるそうに聞く。
「えーもう全部っだって!この長い付き合いでその扱いはひどいって」
手を上下左右に振りながら訴える。
まるでダンスを踊ってるようだ。
「水谷さんっ…もうよしましょ」
こっちは1年後輩の栄口勇人。後輩のくせに仕事が出来るので立場も阿部とそんなに変わらない。
よく呑みにいく仲間でもある。
「でもさぁー」
まだ何か煮え切らないようで抜けた顔をする。
抜けているのは元々で抜けているというよりは間抜けなのだ。
「じゃあ阿部さんがですよっ!水谷さん以外の人に接する態度で水谷さんに接したらどうですか?無駄に笑顔でキラキラしてて爽やかでいい匂いがして………もぅなんか、気持ち悪くないですか?」
「あー確かに」
あー確かにとはどういうことか
栄口も途中まで良いことを言っていたのに最後の一言でぶち壊しな発言。
「気持ち悪いってお前な、」
ただでさえ疲れていて、目付きが悪いのに更に悪くなる。
更に悪いとはどんなだろうか、地球滅亡か?
「実際そうじゃないですかっ。でも僕の目にもまだキラキラして映ってますよ。あとまぁ今の顔なんて、一人殺ってるって感じですもん。」
「はぁ」
阿部の溜め息がやむ気配はない。