book

□ハニー×ハニー
2ページ/6ページ

今日はいつもと違う事がある。

それはデスクの上が山と化していることだ。
書類やらなんやら分からない。

仕事は難なくこなすのだが、今は新入社員の尻拭いに追われている。



自分でやらせれば良いのだが初めから怖い上司をやるのも疲れた。

部下を叱っているうちに自分の仕事がどんどん溜まるのにも嫌気がさしていたようだった。


それなら俺が全てやってしまえばいい、そこにたどり着いてしまったのだ。

部下には暇なときに仕事を教えるか。他の誰かにやってもらおう。

「…よし終わらせるか」

席に座り直してデスクに向かう。表情は面白いくらいに無表情で人形のようだ。


残業をしている者は少なく静かな社内には、カタカタとパソコンを打つ音しかしない。


「阿部さん?」

「ん?……栄口か」

ふと時計を見ると針は一回りしていることに気付く。

それに何故栄口がいるのだろうか、と思ったが理由は直ぐ判明した。


「どうした?」

「いや…今日阿部さんこだついてたんで…結構仕事溜まっててたし、もしかしたら今も仕事してるかもって……あれ?…もうこんな片付いたんですか!?」

阿部のデスクをみて驚く。先程まで山積みになっていた書類は綺麗に整頓されファイリングされていた。

「あらかたな、誰もいない、邪魔しない、ならこんなもんだろ」 

視線はまだパソコンにある手も止まっていない。


「いやー…ははっ…とりあえず…差し入れのコーヒーです…」
 
「あぁ、ありがとな」


コーヒーを受けとるとまたパソコンに向き直る。

すると視線を感じた。


「どうしたんだよ栄口?帰んないのか?」

別に話を振ってやることもないのだが、そこにいるとなるとまた話は違う。

「丁度いいんで、呑みにいきましょ」

「はぁ?…そんなんでそこに居たのか?…まぁいいが」

少し呆れた顔をする。

「じゃ待ってますねー」

「………」

「………」

「………ここで待ってんのか?」

「はい」

「今邪魔してるのがお前だってこと気付かないか?」

「えぇ」

けろっと答える。悪気満々らしい。

「はぁー」

「溜め息つかない方がいいですよっ幸せが飛んじゃいます」

「溜め息の原因はお前だ」

栄口と話していても手は休めない。確実に仕事は進む。デスクにあるのはもう数枚の資料だけだ。

「………」


「…………」


「…っぁッー…おわったぁー」 


パソコンのEnterキーを力強く押して、作業を終了する。
明日の会議の資料をまとめてバックに入れ、あとはジャケットを着たらもう出れる。


「早くしてください」

「待てよ上着ぐらい着させろ」

かけてあったジャケットをとる。
それを着てバッグを持つと、足早にオフィスを後にした。


明るいオフィス街を歩く。そこを抜けると駅だ。


「どこで呑みましょうか?…もうっ何でも聞きますからね!日々の鬱憤やら色恋やら、ほんと何でも聞きますから」  

「なんでお前に色恋の話をしなきゃいけないんだ?」

「…ぇッ……お相手いるんすか?」


茶化したように言う。

「んぁーもうっ…いねぇーよそんな奴」

「ですよねー」

「…」

相手をするのがめんどくさいのか、軽く無視をする。視線を外して周りを見る。

「無視しないでください」

その時阿部の視界の端に一人の男性がいた。

「阿部さーん…おーい」

その男性は右手の大通りを挟んだ向かい手前の角の花屋から出てきた。
大きな植木鉢を抱えている。いかにも重そうだ。




男性、といっても顔はとても中性的で髪の毛は空中に舞ったようにふわふわしている。


「がちでやめてくださいよー無視とか」


見ていたらその男性は持っていた植木鉢をお店の前にとめてあるトラックに積み込むと走って店の中に入ってしまった。

急いでいるのだろうか、そう思いつつ特に重要な事でもないので、その考えは頭の中を素通りした。

一旦は視線をそこから外したものの、また視線をそちらにやると店から植木鉢を持って再び出てきた。

「あっ…!」

突然声を上げた阿部

それに少しびっくりする栄口。

「あっ?ってどうしました?」

阿部が声をあげるのに十分な理由が阿部の目に映ったのだ。


その男性が植木鉢を下敷きに、前のめりに転んでいた。


「なぁ栄口」

阿部の表情は少し慌てた様子だった。

「ふぇ?」

「すまねぇ、今日の呑みはお預けだ。埋め合わせは必ずする!」 



「えっ…あぁ………えっ?」

栄口が気が付くとそこにはもう阿部の姿はなかった。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ